っておい

シロ

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三、調査は進行して・・・いない!?

3ー10、悪化してきたら止めるが。

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 しかも、タイラには見覚えがあった。
「これ、孟起が使っている物でござる」
魔法文字は気で刻む物なので文字の形に個性が表れ易い。
「だろうな。儂もそう考えた」
玄劉にシチューのおかわりをつぎながら雲長が頷いた。
「でも、そう考えると矛盾が生じるの」
「どういうことでござるか?」
「だって、これが発見された拠点は三日前に夜襲を受けたのだから」
三日前、漢蜀が依頼を受けた日だ。たしか、編入の手続きと玄劉の打ち合わせ&制服作りで朝まで忙しかった日だった。全員漢蜀の事務所で寝ることなく一夜を過ごした。もちろん、孟起もだ。確かに外に出かけることもあったが、夕食の弁当を買うためだけで一時間もしないうちに帰ってきた。とても時間があったと思えない。場所もアメリカなため、瞬間移動は距離がありすぎて無理である。上級召喚獣ならそんなスピードで飛べるかもしれないが、乗っている術者が風圧に耐えられない。
「となれば、孟起が誰かに渡したとしか思えないのだ。彼が大切な商売道具を簡単に盗ませるとも思えないからな」
茶碗を差し出し、玄劉は三杯目のおかわりを要求した。
「あいつのことだからどうせ女だろう。だったら、覚えていてもおかしくない。旅をしていた時は傭兵業の他にギャンブルでも稼いでいたらしいからな」
雲長の額に青筋が入る。ガチガチの武家で育った雲長にとってギャンブルや女タラシは汚らしい賭け事としか思えないのだ。二人の対立は大抵育ってきた環境と文化の異なりが原因ではないかと玄劉とタイラは思っている。だから、二人は彼らの口喧嘩に割って入らないのだ。もちろん、悪化してきたら止めるが。
「これが玄劉の話の分ね」
「すまないでござる」
「いいのよ。説明って好きだし。それに彼は今失った栄養を必死で取り戻そうとしているのだから」
五杯目のシチューのお替りを凄い勢いで食べる玄劉を見てコゲは料理人冥利に尽きますわと嬉しそうに笑った。
「私の用はこちら。今日の昼、何者かが我が社のコンピューターに侵入して我が社の行動予定に一部付け足してしまったの。中国企業薬甜を潰すようにと。おかげで部下が勘違いして攻撃してしまったわ。社長も許可しちゃって」
「よく、無事でござったな」
「前々から気に食わなかったからいつか潰してしまおうって思っていたのが早まっただけですからノープロブレムよ」
中国の会社が何をしていたのか知らないが、そんないい加減な理由で潰されたと知ったら・・・・憤慨するか落ち込むかだろうなと苦笑いを浮かべるタイラだった。
「まぁ、このことは問題じゃないのよね。問題は社長が許可したってこと。この計画はまだ社長に教えていなかったから」
「自分で考え付いたのではなかろうか」
「ありえないわ」
雲長の意見はアッサリと一蹴にされた。
「彼自分が興味ないことはノータッチなのよ。興味を持つと人以上の想像力と独創性を創り出してくれるのだけど。企業の関係は専用の部門がありますからね。もちろん、決定権は社長だけれど。それに彼の主な仕事はハンコ押し。そんな情報どこで手に入れたのかしら・・・・・・気になったから電話してみましょう」
「今、十二時を回ったところでござるが」
「私の電話にはいつでも出れるようにしときなさいって常日頃から言ってるから平気よ」
社長と秘書の立場が見事逆転しているのがヤドン会社の影の特徴である。
「あ、ヤドン。例の潰しちゃった企業の件だけど。うん、そう、どこで知ったか教えて欲しいなって。・・・・・・へぇ~、そう、わかったわ。明日は十一時半から会議となります。遅れないほうがいいですよ。またあれで叩き起こしにいきますからね」
史上初、悪の脅迫以外で社長を脅せる秘書かもしれない。何を使って叩き起こすのだろうか。ピッと音がして携帯を切ったコゲがはぁ~っと長いため息を吐いた。
「スポンサーの一つである王星財団の主から聞いたそうよ。久しぶりに街中で出会ったので飲みに行ったときに聞いたのだ、と。彼の情報源としてはまともなほうね」
「そうだな。あの男のことだ。猫から聞いたとか言い出しても別に不思議に思えない。寧ろ、それが普通でしたね」
玄劉もヤドン会社の社長と知り合いらしい。漢蜀には変な繋がりがあるようだ。
「あははは、もうありましたよ。他にもバッタからとか、盆栽からとか、布団からとか」
無機物からもお告げを聞けたらしい。本人の名誉のために一言。彼は麻薬中毒者ではない。麻薬撲滅委員会の会長だ。
「この寮に女がいるなんて珍しいと思ったらスタートウのやつかよ。てっきりどっちかが再婚者でも連れてきたのかと思ったぜ」
皆が振り向くと何時の間にか帰ってきた孟起がいた。しかし、いつものことなのか誰も驚かなかった。
「期待外れで残念でした」
「一番低い可能性を言っただけだ。高いのは依頼者だな」
「それで、おまえは今まで何をしていたのだ」
「調査だ。この前、夜の学校で会った奴がいただろ。俺は岱とそいつを調べていたんだ。文句ねーだろ」
「確かに調査は大切だ。だが、何も連絡を入れぬとはどういうことだ」
「そんな面倒いこと一々やってられるか」
「面倒いとはなんだ。面倒いとは」
「言葉通りだ。デカイ図体のわりにボケるのは早かったな。そういえば、もう四千才を超えてんだっけな」
「そこまで年をとった覚えはない。まだ二十過ぎの若造が生意気な口を叩くな。」
二人の間に火花が散る。
「ひょっとしていっつもこんな感じ?」
「そうでござる」
「いや~、お恥ずかしい」
ここはいつでもマイペースで、皆生き生きとしている。コゲは笑いながら玄劉に言った。
「そんなことないわ。寧ろホッとしたかしら。本当に全然変わってないのね」


                              続く
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