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10ー21、ウサギ、疑問符を付ける
エターナニル魔法学園特殊クラス
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意識が浮上する。まだ重い瞼をこすり、イスカは大きな欠伸をした。携帯を取り出してみるが、レイカからの連絡は電話、メール共になかった。こちらからかけても通じない。しかし、以前の様な落ち着かなさもないので、たぶん無事だろう(根拠はない)。
「おはよう。良く眠れたかい?」
「ええ、ぐっすりととはいかないけれど、疲れはとれたわ」
「ぶほっ、それは重畳」
「マスター、いい加減に慣れなさいよ」
「堪えられる様にはなってきた。何あと数日もすれば何とかなる」
眉間に皺を寄せ、小難しい顔をしているのがここの受付員、シエンである。昔はギルド員としてブイブイ言わせていたらしいが、イスカが入団した頃にはちょっと愛想の悪い受付になっていた。可愛い女子はいるのに何故この男を受付として選んだのか。今でも疑問である。夜中にやってきたイスカを何も聞かずに泊めたり、眠気ながらの説明でギルド員を学園島に向かわせたりと、意外と有能である。
「それで、学園の様子は?」
「目下調査中としか言えんな。かなり大規模な爆発だったらしく、津波も発生している。被害がなかったのが不思議なくらいだ」
陸とかなり距離があったので津波も1m程の小さなものだったらしい。それにしても、かなり大きめの孤島を完全爆破するだけのエネルギーが一体どこにあったのだろうか?
「犯行声明とかも出てないの?」
「ないな」
「猟兵団辺りが犯人なら出そうなもんだけれどね」
猟兵団を名乗るには実績が必要である。犯罪を成功させた実績が。今回の事件などぴったりだと思うので、犯行声明がないのは逆に不気味である。
「そうだ。お前に客が来ている」
名指し指名?誰だろう。戻ってきたと言ってないので昔の馴染み客の可能性はないだろう。レイカとも考えたが、ギルドに在籍していたとは言ったが、どこのギルドかは話していない。ここに辿り着けるのは砂丘でガラス玉を探すような感じだろう。これが意外と難しい。
「元気しているようだな」
「よう・・・・ロイズ?」
「疑問符をつけるな」
「だって・・・・・」
姿は確かにロイズだった。それも生身の方。しかし、大きさは30cmあるだろうか?手乗りサイズまで縮んでいる。そのせいで、イスカは妖精に会えたと勘違いしてしまった。
「どうしたのよ?いつもの身体は?」
「島ごと爆破された」
そうだった。島にあったもの全て木端微塵に砕け散ったのだった。
「島外の研究所に取りに行こうと思うが、この状態は少々無防備でな」
物理攻撃は効かないかわりに、魔法攻撃のダメージは倍加する。魂がむき出しの状態と変わらないそうだ。魔法主体で戦うこっちでは危険な状態である。
「依頼にしてくれるんなら護衛引き受けるわよ」
当然報酬もはずんでもらうわ、と手でお金の形を作って交渉を開始する。
「そうだな・・・・」
「あんたの金銭感覚どうなってるのよ?」
掲示された金額は正規ギルドでも高額依頼と称されてもおかしくないほどの額だった。
「これなら正規ギルド員雇ってもお釣りがくるわよ」
「あー、機密事項だからな」
何だろう。レイカが見せてくれたアニメではこういうセリフは可愛い女の子が恥ずかしげに言っていた。そっちとチェンジしたいと思うのはイスカが健全な男子だからだろう。
「詳しい場所は外に出てからだな」
「ちょっと、まだ受けると言った覚えはないわよ」
「受けるだろ。学費」
「受けるけどさぁ」
「どうする?籍は抜いていないからこっちの依頼としても受けられるが?」
「もちろん、こっちで受けるわ」
学園ギルドには報酬金の上限が設けられている。ランク制と共に設けられた、無茶な依頼を受けないようにするための配慮だ。今回ロイズが掲示した金額は上限ギリギリとなっていた。学園ギルドで依頼を受けたら上乗せができない。
「了解した。依頼書を作成する。その間に朝食でもとってくれ」
「じゃあ、遠慮なく」
カウンターに並んでいる大皿へと視線を向ける。食事は朝食のみセルフサービスになっている。大食らいが多い冒険者の3食をただ飯にできるギルドなどどこにもない。ここのギルドでは英気を養ってもらうために登録員には朝食だけ無料で振る舞っている。セルフサービスなのでほかほかのとは言えないが、味は美味しい。久しぶりの朝食をイスカは遠慮なく取り皿についでいく。自家発火で焼けばいいじゃないかと思われるだろうが、火力調整が苦手なため、消し炭になるのはする前に明らかである。
「よく食べるな」
「朝食だから控えめよ」
四回目のおかわりを取りに行こうとした時に、シエンが書類を片手に奥から戻ってきた。ナポリタンモドキをこんもりと皿に盛った帰りに書類を受け取る。大口を開けて食べながら内容を確認する。護衛依頼となっているが、依頼人以外全てクエスチョンマークが書かれている。学園ギルドだったらまず通らない依頼だ。
「ロイズはそのまま移動で大丈夫なわけ?」
「いや、適当な物に入っていくつもりだ」
「ふとした疑問なんだけれど、おにぎりに入って食べられたらどうなるの?」
「普通に痛い」
操作性をスムーズにするために痛覚は添付するそうだ。神経とかどうなっているのか、考えなくていいのが魔法のいいところである。結局、イスカが買ってきたリュックサックに憑くことになった。中にはイスカのお昼ご飯がぎっしり詰まっている。ロイズが不満を言うと、イスカはぺろりと食べてしまい、代わりに買ってきたお菓子を詰めた。
『せめて魔道具を入れろ』
「だって使わないもん」
『これだから脳筋魔道士は・・・・・・・』
「あまり喋らないでよ」
『何、これが話しているとはわからんさ』
そうだろうか?とイスカは思う。さっきからチラチラとこっちを見ている子供がいるのだ。インセクターなので話し声を聞くことはできないだろうが、ロイズの言葉に合わせて蓋がパカパカ開くのが面白いのだろう。
続く
「おはよう。良く眠れたかい?」
「ええ、ぐっすりととはいかないけれど、疲れはとれたわ」
「ぶほっ、それは重畳」
「マスター、いい加減に慣れなさいよ」
「堪えられる様にはなってきた。何あと数日もすれば何とかなる」
眉間に皺を寄せ、小難しい顔をしているのがここの受付員、シエンである。昔はギルド員としてブイブイ言わせていたらしいが、イスカが入団した頃にはちょっと愛想の悪い受付になっていた。可愛い女子はいるのに何故この男を受付として選んだのか。今でも疑問である。夜中にやってきたイスカを何も聞かずに泊めたり、眠気ながらの説明でギルド員を学園島に向かわせたりと、意外と有能である。
「それで、学園の様子は?」
「目下調査中としか言えんな。かなり大規模な爆発だったらしく、津波も発生している。被害がなかったのが不思議なくらいだ」
陸とかなり距離があったので津波も1m程の小さなものだったらしい。それにしても、かなり大きめの孤島を完全爆破するだけのエネルギーが一体どこにあったのだろうか?
「犯行声明とかも出てないの?」
「ないな」
「猟兵団辺りが犯人なら出そうなもんだけれどね」
猟兵団を名乗るには実績が必要である。犯罪を成功させた実績が。今回の事件などぴったりだと思うので、犯行声明がないのは逆に不気味である。
「そうだ。お前に客が来ている」
名指し指名?誰だろう。戻ってきたと言ってないので昔の馴染み客の可能性はないだろう。レイカとも考えたが、ギルドに在籍していたとは言ったが、どこのギルドかは話していない。ここに辿り着けるのは砂丘でガラス玉を探すような感じだろう。これが意外と難しい。
「元気しているようだな」
「よう・・・・ロイズ?」
「疑問符をつけるな」
「だって・・・・・」
姿は確かにロイズだった。それも生身の方。しかし、大きさは30cmあるだろうか?手乗りサイズまで縮んでいる。そのせいで、イスカは妖精に会えたと勘違いしてしまった。
「どうしたのよ?いつもの身体は?」
「島ごと爆破された」
そうだった。島にあったもの全て木端微塵に砕け散ったのだった。
「島外の研究所に取りに行こうと思うが、この状態は少々無防備でな」
物理攻撃は効かないかわりに、魔法攻撃のダメージは倍加する。魂がむき出しの状態と変わらないそうだ。魔法主体で戦うこっちでは危険な状態である。
「依頼にしてくれるんなら護衛引き受けるわよ」
当然報酬もはずんでもらうわ、と手でお金の形を作って交渉を開始する。
「そうだな・・・・」
「あんたの金銭感覚どうなってるのよ?」
掲示された金額は正規ギルドでも高額依頼と称されてもおかしくないほどの額だった。
「これなら正規ギルド員雇ってもお釣りがくるわよ」
「あー、機密事項だからな」
何だろう。レイカが見せてくれたアニメではこういうセリフは可愛い女の子が恥ずかしげに言っていた。そっちとチェンジしたいと思うのはイスカが健全な男子だからだろう。
「詳しい場所は外に出てからだな」
「ちょっと、まだ受けると言った覚えはないわよ」
「受けるだろ。学費」
「受けるけどさぁ」
「どうする?籍は抜いていないからこっちの依頼としても受けられるが?」
「もちろん、こっちで受けるわ」
学園ギルドには報酬金の上限が設けられている。ランク制と共に設けられた、無茶な依頼を受けないようにするための配慮だ。今回ロイズが掲示した金額は上限ギリギリとなっていた。学園ギルドで依頼を受けたら上乗せができない。
「了解した。依頼書を作成する。その間に朝食でもとってくれ」
「じゃあ、遠慮なく」
カウンターに並んでいる大皿へと視線を向ける。食事は朝食のみセルフサービスになっている。大食らいが多い冒険者の3食をただ飯にできるギルドなどどこにもない。ここのギルドでは英気を養ってもらうために登録員には朝食だけ無料で振る舞っている。セルフサービスなのでほかほかのとは言えないが、味は美味しい。久しぶりの朝食をイスカは遠慮なく取り皿についでいく。自家発火で焼けばいいじゃないかと思われるだろうが、火力調整が苦手なため、消し炭になるのはする前に明らかである。
「よく食べるな」
「朝食だから控えめよ」
四回目のおかわりを取りに行こうとした時に、シエンが書類を片手に奥から戻ってきた。ナポリタンモドキをこんもりと皿に盛った帰りに書類を受け取る。大口を開けて食べながら内容を確認する。護衛依頼となっているが、依頼人以外全てクエスチョンマークが書かれている。学園ギルドだったらまず通らない依頼だ。
「ロイズはそのまま移動で大丈夫なわけ?」
「いや、適当な物に入っていくつもりだ」
「ふとした疑問なんだけれど、おにぎりに入って食べられたらどうなるの?」
「普通に痛い」
操作性をスムーズにするために痛覚は添付するそうだ。神経とかどうなっているのか、考えなくていいのが魔法のいいところである。結局、イスカが買ってきたリュックサックに憑くことになった。中にはイスカのお昼ご飯がぎっしり詰まっている。ロイズが不満を言うと、イスカはぺろりと食べてしまい、代わりに買ってきたお菓子を詰めた。
『せめて魔道具を入れろ』
「だって使わないもん」
『これだから脳筋魔道士は・・・・・・・』
「あまり喋らないでよ」
『何、これが話しているとはわからんさ』
そうだろうか?とイスカは思う。さっきからチラチラとこっちを見ている子供がいるのだ。インセクターなので話し声を聞くことはできないだろうが、ロイズの言葉に合わせて蓋がパカパカ開くのが面白いのだろう。
続く
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