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10ー7、ウサギ、胸に突き刺さる
エターナニル魔法学園特殊クラス
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「全員揃ったな」
「で、何の用よ」
「所用でな。これをガルクザルグまで持って行ってくれ」
ロイズが持ってきたのはイスカの掌に乗るサイズの白い袋だった。ガルクザルグと言えば、インセクターの国の首都である。獣人族の首都がイギリス風の歴史ある都会であるのに対し、ガルクザルグはアメリカ風のビルが建ち並ぶ現代風の都市である。
「そんなことで呼び出したわけ?明日でいいじゃない」
「事情は聞くな。今週中につかないといけないのだ」
納期とか期限とか色々あるのだろう。
「中身確認しても?」
「ダメだ」
「危険物じゃないでしょうね?」
「交通手段に関してだが」
ロイズは露骨に話題を逸らした。
「1時間後に定期船が出る」
「こんな夜中に?」
「珍しいことではない。ただ、時間が時間だからな。成人しか乗れない仕組みになっている」
「それじゃあ、無理じゃない」
「僕は・・・たぶん無理かな」
「見た目年齢じゃなければ、うちはいけるなぁ」
こう見えてレイカは成人式を終えている。ただ、誰がどう見ても子供にしか見えないだけである。
「そこでこの薬だ」
ロイズは引き出しから赤と青の錠剤の入った瓶を取り出した。
「赤が+10、青が-10だ。効果は一週間。今は最寄りの港まで二日だから十分間に合うだろう」
前にもお世話になったことがあるレイカにはわかった。年齢匙加減錠剤である。服用した分だけ年齢を加算または減算することができる品物で、ロイズのオリジナル品だ。以前は±5だったので改良したらしい。三人を観察した後、ロイズはイスカに2粒、レイカに2粒、リトアに200粒入った瓶を渡した。これを全部飲まないといけないのか、とリトアが唖然となっているのを横にロイズはカード入れをひっくり返した。
「ねぇ、ロンは飲まなくていいの?」
「あいつは自力でなれるからな」
外見年齢の操作はお手の物だそうだ。こうして聞くと物凄い人に見えるのに彼と話すとそれを全く感じさせない。さすが、面倒臭がり屋。
「その魔法かけてもらえればいいんじゃないの?」
「自身専用だと言っていたが?」
どうだ?とロイズの問いに刀を腰に差したロンは首を横に振った。説明はなかった。風がロンを包み込む。解けた時には長い黒髪が美しい女性が立っていた。
「えっと・・・・・・」
「ロンはん、女性やったん?」
「・・・・・・」
髪を束ねるロンの口は一文字に絞られている。
「ロン、説明を面倒臭がるな」
ロイズに怒られ、ロンはしぶしぶ口を開いた。
「・・・どちらでもない」
「何それ?」
「・・・固定性別がない」
「ごめん、よくわからへんわぁ」
「・・・なら説明のしようがない」
説明が面倒臭い、の間違いではないだろうか。元々中性的な顔立ちに筋肉の付き方をしている。どちらと明言しているのは寮くらいだった。だが、寮の申請書類などどうとでも騙せることはイスカも知っていることだった。
「性別なんて些細なことだよ。ロンがロンであるが故はそれだけではない、と思うよ」
「それはそうだけれど」
「この学園で性別を隠している人、他にもいるし、珍しいことではないかな」
グサリと言葉がイスカの胸に突き刺さった。これ以上追及はできない、と二人は思った。ヘタに追求すればイスカのことがばれてしまう可能性がある。それだけは避けたかった。もっとも、リトアにはイスカのことはばれていることをレイカは知っている。
「よし、あった」
ロイズが手渡したのはカードキーだった。一枚ずつ三人に渡していく。
「こっちじゃダメなの?」
乗船時に掲示するカードを取り出してヒラヒラと振ってみせる。身分証明書みたいにたいそうなものではない。
「それにも年齢がインプットされているからな。偽造するしかないだろう。この三枚なら大丈夫だ」
「誰がどれとかあるんどすか?」
写真が入っている訳ではないから誰がどれを使ってもいいらしい。ロイズのはいいのかと尋ねると、行かないんだからいらないだろ、とシレッとした顔で返された。
「まったく、ちょっとは外に出ないと心身共に錆びるわよ」
「余計なお世話だ」
ポイポイッと三人を追い出す。カードを放り投げるとガチャリと閉めた。慌ててイスカが駆け寄ったが、周囲とは異なる重い鉄の扉で、しっかりと鍵をかけられていた。電話と携帯を取り出すも、電波が届かないとアナウンスが流れるだけだった。そういえば研究のためだけに研究室をシェルター化したのだった。
続く
「で、何の用よ」
「所用でな。これをガルクザルグまで持って行ってくれ」
ロイズが持ってきたのはイスカの掌に乗るサイズの白い袋だった。ガルクザルグと言えば、インセクターの国の首都である。獣人族の首都がイギリス風の歴史ある都会であるのに対し、ガルクザルグはアメリカ風のビルが建ち並ぶ現代風の都市である。
「そんなことで呼び出したわけ?明日でいいじゃない」
「事情は聞くな。今週中につかないといけないのだ」
納期とか期限とか色々あるのだろう。
「中身確認しても?」
「ダメだ」
「危険物じゃないでしょうね?」
「交通手段に関してだが」
ロイズは露骨に話題を逸らした。
「1時間後に定期船が出る」
「こんな夜中に?」
「珍しいことではない。ただ、時間が時間だからな。成人しか乗れない仕組みになっている」
「それじゃあ、無理じゃない」
「僕は・・・たぶん無理かな」
「見た目年齢じゃなければ、うちはいけるなぁ」
こう見えてレイカは成人式を終えている。ただ、誰がどう見ても子供にしか見えないだけである。
「そこでこの薬だ」
ロイズは引き出しから赤と青の錠剤の入った瓶を取り出した。
「赤が+10、青が-10だ。効果は一週間。今は最寄りの港まで二日だから十分間に合うだろう」
前にもお世話になったことがあるレイカにはわかった。年齢匙加減錠剤である。服用した分だけ年齢を加算または減算することができる品物で、ロイズのオリジナル品だ。以前は±5だったので改良したらしい。三人を観察した後、ロイズはイスカに2粒、レイカに2粒、リトアに200粒入った瓶を渡した。これを全部飲まないといけないのか、とリトアが唖然となっているのを横にロイズはカード入れをひっくり返した。
「ねぇ、ロンは飲まなくていいの?」
「あいつは自力でなれるからな」
外見年齢の操作はお手の物だそうだ。こうして聞くと物凄い人に見えるのに彼と話すとそれを全く感じさせない。さすが、面倒臭がり屋。
「その魔法かけてもらえればいいんじゃないの?」
「自身専用だと言っていたが?」
どうだ?とロイズの問いに刀を腰に差したロンは首を横に振った。説明はなかった。風がロンを包み込む。解けた時には長い黒髪が美しい女性が立っていた。
「えっと・・・・・・」
「ロンはん、女性やったん?」
「・・・・・・」
髪を束ねるロンの口は一文字に絞られている。
「ロン、説明を面倒臭がるな」
ロイズに怒られ、ロンはしぶしぶ口を開いた。
「・・・どちらでもない」
「何それ?」
「・・・固定性別がない」
「ごめん、よくわからへんわぁ」
「・・・なら説明のしようがない」
説明が面倒臭い、の間違いではないだろうか。元々中性的な顔立ちに筋肉の付き方をしている。どちらと明言しているのは寮くらいだった。だが、寮の申請書類などどうとでも騙せることはイスカも知っていることだった。
「性別なんて些細なことだよ。ロンがロンであるが故はそれだけではない、と思うよ」
「それはそうだけれど」
「この学園で性別を隠している人、他にもいるし、珍しいことではないかな」
グサリと言葉がイスカの胸に突き刺さった。これ以上追及はできない、と二人は思った。ヘタに追求すればイスカのことがばれてしまう可能性がある。それだけは避けたかった。もっとも、リトアにはイスカのことはばれていることをレイカは知っている。
「よし、あった」
ロイズが手渡したのはカードキーだった。一枚ずつ三人に渡していく。
「こっちじゃダメなの?」
乗船時に掲示するカードを取り出してヒラヒラと振ってみせる。身分証明書みたいにたいそうなものではない。
「それにも年齢がインプットされているからな。偽造するしかないだろう。この三枚なら大丈夫だ」
「誰がどれとかあるんどすか?」
写真が入っている訳ではないから誰がどれを使ってもいいらしい。ロイズのはいいのかと尋ねると、行かないんだからいらないだろ、とシレッとした顔で返された。
「まったく、ちょっとは外に出ないと心身共に錆びるわよ」
「余計なお世話だ」
ポイポイッと三人を追い出す。カードを放り投げるとガチャリと閉めた。慌ててイスカが駆け寄ったが、周囲とは異なる重い鉄の扉で、しっかりと鍵をかけられていた。電話と携帯を取り出すも、電波が届かないとアナウンスが流れるだけだった。そういえば研究のためだけに研究室をシェルター化したのだった。
続く
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