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9ー21、カメ、個人依頼が来る

エターナニル魔法学園特殊クラス

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 そんなこんなで時間は過ぎ、3人は獣人族首都に到着した。一晩を列車の中で過ごしたので体がバキバキする。昼食を食べに喫茶店に入る。他愛もない話で盛り上がった。全員が一服した後、レイカはこれからどうするのかと尋ねた。
「薬屋さんに受注書持っていくよ」
「とりあえず、帰ったって報告だな」
「うちは国立図書館に行きたいどす」
ビジネス街は東区、学校は南区、図書館は北区にある。方向は見事にバラバラだった。
「なら、全員別行動だな」
「そうだね。待たせるのもあれだし、それでいいかな」
「ジアルはんはそのまま帰るんじゃあらへんの?」
「お前達といた方が楽しそうだから一緒にいるぜ」
「出席日数とか大丈夫なのかな?」
「何とかなるだろ」
あ、これ、何とかならないパターンだ。留年しようとも責任はジアル自身にある。レイカは放っておくことにした。
「では、5時間後にこの喫茶店に集合、でいいかな」
「「異議なし」」
1人になったレイカはさっそく図書館に向かった。中央区から円電に揺られて30分、静かで伝統的な煉瓦造りの建物が建ち並ぶ地区に到着した。その中で一際横に広い建物に国立図書館と書かれた看板があった。本棚と言う本棚にはズラリと本が並んでいる。人に聞くのはアレな内容なので検索用設置PCで調べることにした。“時”“魔法”“タイムトリップ”で検索を掛ける。ヒットする物があった。探してみるとそれは児童文学の欄にあった。こちらからカーレントに行った体験談風のフィクション小説だった。呼んでみたらこれが結構面白い。昭和くらいの時代にトリップし、そこで科学を学びながら帰る方法を模索するそんな内容だ。夢中になって全21巻の20巻目を読んでいた時だった。携帯にメールが届いた。マナーモードにしておかなかったのが悔やまれる。タイトルには学園ギルドからの個人依頼と書かれている。
【学園ギルド管理委員会からの個人依頼】
 精霊眼を持ち、獣人族首都にいるあなたにギルドからの依頼となります。幽霊が出ると言われる廃坑の調査です。地図は添付されている画像で確認ください。なお、拒否権はありません。
心臓が一際大きな鼓動を立てる。何だろう。この依頼、嫌な予感がする。一緒に送信された画像を開く。首都の東外れの坑道、レイカには覚えがあった。以前、2魂合体を果たした夫婦の頼みによって魔道士退治をしたあの坑道である。さ迷える魂を何とかするのは慣れているが、問題は魔道士が召喚したであろう化け物の方である。またミノタウルスだったら堪ったものではない。レイカは対魔法使いに特化した魔法使いである。物理攻撃特化には滅法弱い。単独依頼と書いていないので助っ人を頼んでも問題はないはずである。そうでなければ、完全に死地に赴かされている。
「リトア先輩と、ジアルはんも言えば手伝ってくれるやろか?」
2人にメールを送信する。イスカにも帰るのが遅くなるとメールを送る。数分後、イスカから返信が届いた。先輩の依頼に同行させてもらっているからこっちもしばらく帰れない。どちらが先に片付けるか競争しよう、とのこと。何の依頼かわからないが、こういう競争は嫌いではない。トップ賞はいつもの食べ放題でと返信する。次に来たのはジアルのメールだった。ダチが一緒に行きたがってる、とのこと。特に何も考えずに了承した。最後に来たのはリトアのメールだった。すぐに合流するから一人でいかないで、と言う内容だった。単独で乗り込むなどとんでもない。それより、今問題なのは・・・・・・残りの一冊。読んでしまいたいのだが、そろそろ喫茶店にいかないと間に合わない時間である。児童文学。学園の図書館に置いてあるだろうか・・・・・・幼児向けの絵本(レイカの語学の教科書)があったくらいだからありそうだ。図書カードがあれば借りられるのだが、いつここまで返却しに来られるかわからない。カウンターに持っていこうとして、流石に躊躇した。
10分程迷って結局借りることにした。本棚に戻そうとしても手から離れなかった。風呂敷に包んで懐に仕舞う。文庫本サイズで助かった。
「すみません、遅れてしもうて」
「おぅ、時間内時間内」
「揃ったばかりだから大丈夫だよ」
6人掛けの席にはジアルとリトアの他にもう一人座っていた。黒髪短髪で、耳がとがっている。瞳は緑色だ。中の森のエルフ族の少年である。年頃はリトアと同い年くらいだ。そして、その顔にレイカは見覚えがあった。あの屋敷で出会った幽霊であり、不良学校でさんざん世話になったカズその人である。目をカッと見開いてしまったが、逆にそれだけで留まれたことに褒めてほしい。まぁ、リトアという前例があったからだが。
「しかし、驚いたぜ。お前ら知り合ってたんだな」
「おう、依頼先が偶然一緒だったんだよな」
「はい、寮で同室でもあったかな」
友達の友達は友達という図式がレイカの頭の中に浮かんだ。
「で、その小っちゃいのはリトアの後輩なのか?けど、学校系の入学条件って日曜学校卒業が最低限必要じゃなかったか?」
「魔法学園はそれはないかな」
それがあったら、レイカとリトアは学園に入学できなかった。カーレントの高校を卒業しているが、エターナニルで学ぶのは今が初めてだ。リトアに至ってはどこの人なのかもわからない。発見当初は記憶と共に学歴もリセットされていたらしい。身元不明だから仕方がない。促されてリトアの隣の席に座る。
「初めまして、レイカと申します。魔法学園で一年生やってます」
「俺はカズ・フェールだ。ちょっと前まで不良学校で3年をやってた。リトアと出会ったのはその時な。今は騎士学校で5年をしている。こいつ(ジアル)と同級生な。今日はよろしく頼むぜ」
求められた握手に営業笑いで返す。注文を聞きにウエイトレスがやって来た。レイカがメニューの半分まで、ジアルがメニューの最後まで頼むと目を丸くされた。飲み放題を頼んだのでドリンクを取りにいく。まだ、飲んだことのないマレージュースを選んでみた。マンゴーに似た味だった。
「で、そっちの依頼って何なんだ?」
「そっちのってことはあっちのもあるんどすか?」
「俺が依頼持ちだぜ」
ドリアを食べる手を止めてカズは懐から2枚の紙を取り出した。鷹の紋章が入った紙には丁寧な字でこう書かれていた。
【依頼状】
 不審な光を何人かが目撃している。事件性がないか調べるように。
二枚目には目撃情報とそれをマッピングした簡単な地図が書いてあった。
「目撃は西区の住宅街だけらしい。青白い球状の光だと4人とも証言している。それに事件性がないかを調べるのが今回俺が受けた依頼だ」
「うちのはこんなんどす」
貰ったメールを全員に見せる。
「幽霊が出る廃坑の調査か。学生に頼むにしては本格的だな」
「実力者依頼だね。一年でこれ貰えるって凄いことだよ」
「ひょっとして経験者だったりする?」
「はい、除霊できはります」
浄化は条件が厳しいので黙っておくことにした。事実、除霊の方が得意である。従姉ほどではないが。凄い凄い、と褒められ、恥ずかしくなったレイカは反射的にリトアの陰に隠れた。
「何か新鮮だな」
「俺達の周りの女って気が強い奴ばかりだからな」
目が保護者のあれになっている。レイカの反応も成人済みとは思えない。見た目年齢的にもちょっとアウトなのではなかろうか(ただいま中学一年生くらいの姿)。
「内容的にカズの依頼から取り掛かるべきかな」
「そうだな。もうすぐ日が沈むし、光捜ししようぜ」
「なぁ、この光ってなんだと思う?」
カズの質問に三人はしばらく考えて、
「ライトではなさそうだね。魔法のライトを小さくしたやつの可能性はあるけれど」
「揺れてないってことは松明の明かりではなさそうだな」
「魂魄にしては光り方が不安定やないどす」
と、それぞれの考えを述べた。
「西区以外では目撃はないんだけれど、西区って居住区だから結構広いんだよな」
「現れる兆候でもあればもうちょっと楽なんだけれどな」
「目撃情報が同じ場所で2度か3度立て続けにってのも気になるかな」
リトアの言うとおりどの場所にも2~3度出現している。
「まるで、下見、前準備、襲撃どすなぁ」
「その線も調べてみるか」
「そうだね。知り合いに聞いてみるよ」
カズとリトアは懐から携帯を取りだし、どこかへかけ始めた。警察に知り合いがいるのと尋ねると2人からYesと返ってきた。カズの知り合いが地域課で、リトアの知り合いが捜査一課だそうだ。依頼で地域課に繋がりがあるのはわかるが、捜査一課の知り合いなどどうやってできたのだろうか。痴漢逮捕の貢献度を考えても地域課か軽犯罪取締課辺りだと思うのだが。
「うん、うん、ありがと」
「はい、はい、わかりました」
2人の通話が終わるのはほぼ同時だった。
「その辺りで窃盗事件起こってるってさ」
「近くで行方不明者が出ているそうだよ」
詳しい話は聞けなかったそうだ。ただ、レイカは二つの事件が同一犯の仕業である可能性に気が付いた。そう、前の時界の時に廃坑で出会ったあの魔法使いによる犯行である。魔法で人を眠らせた後、連れ出し、実験体にしていた。盗賊に協力させたりもしていた。報酬はその家の金目の物だったのだろう。獣人族首都であった。
「とりあえず、どうするかだが、リーダー決めようぜ」
「お、いいな」
「賛成かな」
船頭多くして船山を登るは確かに困る。レイカも賛成した。

                                  続く
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