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8ー29、カメ、その目を凝らす

エターナニル魔法学園特殊クラス

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「ご、ごめんなさい」
「いいのよ、レイカちゃん。全然痛くないから」
「サッキノ悲鳴ハオ前カ?」
「ち、違いますぅ。ジアルはんがおらへんくなった時はビックリしたけど」
「確か、食堂を調べてたのよね」
いなくなる要素なくない?とイスカは首を傾げる。
「あ、そうだ。窓の外!」
ジアルが指差したのは調理場の窓の一つだった。コンロの奥にあり、出窓になっているため作った物を冷ましやすい造りだ。相変わらずの豪雨がガラスを叩いている。止まないなと眺めていると蛍火のような明かりがスーッと通って消えた。
「あれ、さっきも見えたんだぜ」
何故か慌てたジアルが台所の裏勝手口を開けて飛び出したところ、イスカとぶつかった。レイカはドアを開けた瞬間ジアルが消えたのだと説明した。
「勝手口、カ」
サーチしても特に何も感じられない。実際に見られればもっと他にもわかったのかもしれないな、と思いながらロイズはノブに手をかけた。念のために三人を台所外に待機させておいて。ガチャリと音が鳴った瞬間、後ろから押され、暗転したかと思った次の瞬間には見覚えのある廊下にいた。先程自分とイスカが探索していた部屋がある。そして後ろには閉まった太陽の部屋のドアがある。
「フム」
太陽の部屋のドアに手をかける。勢いよく開けた瞬間また後ろから押され、気が付いたら台所に戻っていた。
「ちょっと、いきなり消えたりなんかしないでよ」
食堂にいた三人が走ってくる。
「れいか、何カ見エタカ?」
「全然どす」
「アー、オ前透過魔力ハ見エナインダッタナ」
精霊眼はあくまで精霊や幽霊などの霊的なものを見る力を持った目のことを指す。そもそも魔力など空気みたいなものなので目視できないのが普通である。見るためには訓練を積む必要がある。
「トナルト、悲鳴ハろんダナ」
小さかったのは遠い所からの空気振動だからと考えれば説明が付く。
「ロンが悲鳴を上げるなんてよっぽどのことがあったのよね」
「リトア先輩の代弁かもしれへんよ」
「それも不味いことだぜ」
ドアに触ろうとした手をロイズが叩く。赤くなった手の甲を摩りながらジアルは言った。
「リトアと中性顔、そのドアから外に出て行ったんだぜ」
「?どういうこと??」
「ループが狭まっているのか、ここだけなのか、ってことやあらへんの?」
「二人一組ナラ大丈夫カト思ッタガ甘カッタナ。分断サレタカ」
ジアルの証言から少なくとも二人が出て行くまでこのループはなかったということになる。元の場所に戻れていればいいが、下手をすれば時空の狭間を彷徨い続けることに。画面の向こうでロイズは舌打ちした。
「何ラカノ理由デるーぷガ狭マッテイルヨウダ」
「いっそのことこの小屋壊すか?」
「賛成。面倒になってきたわ」
「危険やと思う」
「・・・最終手段ナ」
この二人ならやりかねない。これ以上別行動は止めようと思うレイカとロイズだった。
「マァ、原因魔呪詛ナラアノ二人ハ大丈夫ダロウ」
「大丈夫じゃない場合は?」
「原因霊呪詛ノ場合ダナ」
「それって違いがあんのか?」
「単純ニ言エバ、呪詛源トナル力ノ違イダ。魔呪詛ハ魔力、霊呪詛ハ霊力トナル」
「あいつ霊呪詛解除できたっけ?」
魔呪詛なら問題ないんだけどな、とジアルが眉を顰める。
「霊呪詛モナ・・・術式解カス霊力調整ガイルンダヨナ・・・・・・」
「あのぉ、うち、霊呪詛なら解除したことありますぇ」
イスカの後ろから顔を出したレイカが手を上げた。
「ソレナラ話ハ早イ」
4人は太陽の部屋の前へと移動した。変わらない異臭に皆鼻頭にシワがよる。ハンカチで覆いながらレイカはドアを観察した。台所の勝手口と違ってよくわかる。
「ドアに施されているのは死霊を利用した結界術どす。別のな何かで空間を歪ませていはる」
「解除できそう?」
「結界の方は楽どす」
死霊を成仏させれば解ける。人ではなく小動物を利用した結界なので簡単に上に送れる。
「空間ハ俺ガ何トカシヨウ」
「いざとなったら俺がぶち破ってやるぜ」
豪快に笑うジアルの案を実行したら建物ごと吹き飛ばされるのは容易に想像がつく。
「ソノ必要ハナイナ」
腹部が開き、布に包まれた何かをロイズは取りだした。それは丁度拳くらいの大きさの魔石だった。ただし、通常の魔石と違い、色が全く入っていない。
「何それ?」
「アイツノ弾ノ原材料ダ」
「珍しい鉱石ってあれ?」
「魔法無効化してはったあれどすか?」
あいつとは今この場にいないリトアのことだろう。敵の魔道士が発動した魔法陣を尽く無力化していたのをレイカは覚えている。
「単ナル弾ダト接触発動スルカラナ。ソレ防止ニコレダ」
「何で布に包んでるの?」
「不備デ発動サセタラタマッタモンデハナイカラナ」
「せやなぁ」
先進国で石油電力ガスなどの供給が絶たれた状態に近くなるのだろう。つまり、動力源の完全消滅である。好き勝手に発動したらロイズ本体も停止する。下手をすれば操作場もやられてしまう。それは非常に不味いことになる。ヘタをしなくても戦犯ものだ。
「それってどの程度まで解けるの?」
「全魔法トイッテモ過言デハナイ」
「ほとんどチートどすなぁ」
「大国が隠し持っていたら恐怖でしかないわね」
「その辺は無事だと思うぜ」
「何でそう言い切れるのよ?」
「獣人族やインセクター辺りの大国が持っていたらとっくに牽制し合って戦争が勃発しているだろう。霧白森や中の森辺りが所有しているとしたら、こんなところにあるはずがないだろ」
「・・・・・・」
「だから、それはそいつが秘密裏に手に入れたってことだ」
「正解ダ」
排気口から小さな雑音が漏れる。イスカの耳でも聞き取れなかったそれを止めるとロイズは鉱物をドアに向かって投げた。無音で指先大まで縮小した鉱物がカタリと床の上に転がる。イスカの目にはただ氷のように解けていったかに映った。だが、レイカの目にははっきりと空間の歪みが修復され、安定していく様がぼんやりと見えた。
「おお、スゲー」
ジアルにはレイカよりも鮮明に見えていたようだ。やたらと興奮している。その様子をロイズは無視してドアに触れた。ロイズの姿が消えることはなく、バチッと音と共に手とドアノブの間に青白い光が発した。
「なんか、悪化してない?」
「ううん、ロイズはんが飛ばんかった。魔法解除成功どす」
「いいなそれ。くれ」
「金貨1千万デイイゾ」
国なら全国家予算をもってして買えるだろうが、一個人が払える額ではない。億長者が全財産を叩いてようやく手にできる金額だ。今後の研究資金調達、で譲ってもいいのではなかろうか。指先ほどの大きさしかないのだから。
「ニコニコ一括払いで」
即買い!?
「れいか」
なかったことにする気だ。

                               続く
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