上 下
92 / 220
7-18、カメ、止める

エターナニル魔法学園特殊クラス

しおりを挟む
 目が覚めた時、校壁の向こうでは戦が始まっていた。不良2グループの全面戦争なわけだが、やっていることと言えば、騎馬戦である。こっちでの殴り合いはこれが普通なのかも知れないが、エターナニルの常識に疎いレイカには分からなかった。ただ、両チーム真剣に戦っていることは分かった。
「で、あっちの森で先輩が戦ってはる、と」
銃火器どころか剣も使わないのでレイカの位置からではどうやってもわからない。
  チュッドォォオオオオオーーーーン
咄嗟に給水機の上から離脱する。校舎の裏手側からだ。上から覗くと何かがズルリと動くのが見えた。引っ込むと同時に追加の爆撃が起き、何かが外に飛び出してきた。グネグネと蠢くそれは確かに蛇だった。胴回り50cmはあろう大物だ。
「バジリスク本当に居たんやなぁ」
「貴様、そこで何をしている!」
グイッと掴まれ、レイカは屋上まで戻された。投げ捨てられ、受け身を取る。
「会長はんの乱暴!」
「ふん、命があるだけ良しと思え」
「バジリスクはん、強い?」
「・・・そこそこと言ったところだ」
どうやら手間取っているようだ。校内に設置された店や展示物を守りながら戦っているのだろう。
「ウォォオオリャァァアアアアア!!!」
聞き覚えのある気合と共に窓から何かが吹き飛んで行った。窓ガラスと壁の一部、巨大な蛇、そしてたこ焼きと書かれた屋台。
「オルァ、押し出してやったぜ」
「貴様、我が陣営の店を!」
「先にこっちの展示教室爆破したのはそっちじゃねーか!」
「守りながら戦ってはったんじゃ?」
「「そんなみみっちいこと誰がするか!!」」
準備をしていた生徒が聞いたら涙目だろう言葉を両リーダーともアッサリと暴露した。レイカはそれ以上追従するのを止めた。
「お兄ちゃんは?」
「そういえば、見かけねーな」
「そっちで戦っていたのではなかったのか?」
どうも雲行きがおかしい。おかしいと言えば、
「ハルニーガはんはどうしてサングラスしてはるの?」
ハッキリ言ってガラがさらに悪くなっている。
「何か知らねーが、リトアがかけとけってきかなくってよ。おめーだってしてるじゃねーか。人のこと言えんのかよ」
昨日生徒会長が石化しなかった。その訳に視線を遮る何かが目と目の間にあったと考えられる。それがメガネだ。カズとレイカは視線が合ったわけではないので石化しなかったと考えられる。レイカのメガネは一週目の時にカトレアに貰ったゾンビメガネだ。見る者全てゾンビになるという優れもので、これのおかげで二人との会話もスムーズに進む。
「そのリトアはどこにいる?」
「ああ、知らねーよ!」
ハルニーガが怒鳴ったのに答えるかのように校舎が左右に揺れた。積んであったキャベツが倒れてきて三人の頭に当たる。
「魔物が外に出たな」
「魔法の動きがないぞ。あいつ何やってんだ?!」
「お兄ちゃんたしか魔法使えへんよ」
「「はぁ??」」
驚愕の声は見事に重なった。
「魔法が使えない?!マジかよ!!」
「なら、あいつはマジックアイテムだけで爆発を起こしているのか」
生徒会長は鋭かった。
「無茶苦茶じゃねーか、それ」
「マイナーだが、爆薬というものもある」
「なぁ、校舎壊されて不安やないの?」
「問題ねーって」
「あいつが何とかすると言っていたからな」
どうやらこの二人、リトアのことを完全に信頼しきっているようだ。だが、今静かなのを考えると、リトアは炙り出しで校舎から追い出そうとしていたのではないだろうか。それらしい道具がそこに転がっている。おそらく校舎の損傷はリトアにとっても想定外のことではないだろうか。事象をなかったことにする魔法等レイカは聞いたことがなかった。
「おいこら」
外に出ようとしたレイカだったが、ハルニーガに首根っこを掴まれて阻止された。
「何やってんだ?!危ねーだろが!!」
「お兄ちゃんのお手伝いに行かな」
「お前が行っても仕方がないだろーが。おら、暴れんな!」
「うち魔法使えはるもん」
「ふむ、防護壁は張れるか?」
風属性は攻守ともにバランスがとれている。鎌鼬などの斬効果がある攻撃から、風纏いなどの弾き飛ばし効果のあるシールドまで。まさに多種多様だ。残留魔力を考慮してからレイカは言った。
「張れます」
「よし、お前は俺の傍にいろ。命令だ!」
「はぁ、そんなチビどうすんだ?」
「見たところ足手まといにはならなさそうでな。これは推測だが、魔法では貴様よりも実力はあるかもしれん」
「俺がそのガキに負けるってのかよ」
「まさか、実戦経験は明らかに貴様が上だ。PTでは別だろうがな」
PT=ペーパーテスト。確かに、とハルニーガは頭を掻いた。意味が分からなくて首を捻るレイカを小脇に抱えた。
「なら、俺と組ませるのが筋じゃねー?」
「貴様に御守ができるとは到底思えんが?」
「自分の身くらい自分で守れますぇ」
「って、ガキも言ってるし、平気だろ」
「まぁいい。だが、忘れるなよ。俺らの目的は『リトアと合流すること』だ」
「わーってるよ」
「はい、どす」
ギシャアアアアァァァァァーーーー
校庭で巨大な蛇が跳ねる。自力で飛んだのではなく、何かに押し上げられた感じだった。
「ふん、探す手間が省けた」
「あそこだな」
「お兄ちゃん、大丈夫やろか」
それぞれこんなことを呟いてから校庭に向かって走り出した。

                              続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。 両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。 そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった… 本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;) 本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。 ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?

処理中です...