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7-18、カメ、止める
エターナニル魔法学園特殊クラス
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目が覚めた時、校壁の向こうでは戦が始まっていた。不良2グループの全面戦争なわけだが、やっていることと言えば、騎馬戦である。こっちでの殴り合いはこれが普通なのかも知れないが、エターナニルの常識に疎いレイカには分からなかった。ただ、両チーム真剣に戦っていることは分かった。
「で、あっちの森で先輩が戦ってはる、と」
銃火器どころか剣も使わないのでレイカの位置からではどうやってもわからない。
チュッドォォオオオオオーーーーン
咄嗟に給水機の上から離脱する。校舎の裏手側からだ。上から覗くと何かがズルリと動くのが見えた。引っ込むと同時に追加の爆撃が起き、何かが外に飛び出してきた。グネグネと蠢くそれは確かに蛇だった。胴回り50cmはあろう大物だ。
「バジリスク本当に居たんやなぁ」
「貴様、そこで何をしている!」
グイッと掴まれ、レイカは屋上まで戻された。投げ捨てられ、受け身を取る。
「会長はんの乱暴!」
「ふん、命があるだけ良しと思え」
「バジリスクはん、強い?」
「・・・そこそこと言ったところだ」
どうやら手間取っているようだ。校内に設置された店や展示物を守りながら戦っているのだろう。
「ウォォオオリャァァアアアアア!!!」
聞き覚えのある気合と共に窓から何かが吹き飛んで行った。窓ガラスと壁の一部、巨大な蛇、そしてたこ焼きと書かれた屋台。
「オルァ、押し出してやったぜ」
「貴様、我が陣営の店を!」
「先にこっちの展示教室爆破したのはそっちじゃねーか!」
「守りながら戦ってはったんじゃ?」
「「そんなみみっちいこと誰がするか!!」」
準備をしていた生徒が聞いたら涙目だろう言葉を両リーダーともアッサリと暴露した。レイカはそれ以上追従するのを止めた。
「お兄ちゃんは?」
「そういえば、見かけねーな」
「そっちで戦っていたのではなかったのか?」
どうも雲行きがおかしい。おかしいと言えば、
「ハルニーガはんはどうしてサングラスしてはるの?」
ハッキリ言ってガラがさらに悪くなっている。
「何か知らねーが、リトアがかけとけってきかなくってよ。おめーだってしてるじゃねーか。人のこと言えんのかよ」
昨日生徒会長が石化しなかった。その訳に視線を遮る何かが目と目の間にあったと考えられる。それがメガネだ。カズとレイカは視線が合ったわけではないので石化しなかったと考えられる。レイカのメガネは一週目の時にカトレアに貰ったゾンビメガネだ。見る者全てゾンビになるという優れもので、これのおかげで二人との会話もスムーズに進む。
「そのリトアはどこにいる?」
「ああ、知らねーよ!」
ハルニーガが怒鳴ったのに答えるかのように校舎が左右に揺れた。積んであったキャベツが倒れてきて三人の頭に当たる。
「魔物が外に出たな」
「魔法の動きがないぞ。あいつ何やってんだ?!」
「お兄ちゃんたしか魔法使えへんよ」
「「はぁ??」」
驚愕の声は見事に重なった。
「魔法が使えない?!マジかよ!!」
「なら、あいつはマジックアイテムだけで爆発を起こしているのか」
生徒会長は鋭かった。
「無茶苦茶じゃねーか、それ」
「マイナーだが、爆薬というものもある」
「なぁ、校舎壊されて不安やないの?」
「問題ねーって」
「あいつが何とかすると言っていたからな」
どうやらこの二人、リトアのことを完全に信頼しきっているようだ。だが、今静かなのを考えると、リトアは炙り出しで校舎から追い出そうとしていたのではないだろうか。それらしい道具がそこに転がっている。おそらく校舎の損傷はリトアにとっても想定外のことではないだろうか。事象をなかったことにする魔法等レイカは聞いたことがなかった。
「おいこら」
外に出ようとしたレイカだったが、ハルニーガに首根っこを掴まれて阻止された。
「何やってんだ?!危ねーだろが!!」
「お兄ちゃんのお手伝いに行かな」
「お前が行っても仕方がないだろーが。おら、暴れんな!」
「うち魔法使えはるもん」
「ふむ、防護壁は張れるか?」
風属性は攻守ともにバランスがとれている。鎌鼬などの斬効果がある攻撃から、風纏いなどの弾き飛ばし効果のあるシールドまで。まさに多種多様だ。残留魔力を考慮してからレイカは言った。
「張れます」
「よし、お前は俺の傍にいろ。命令だ!」
「はぁ、そんなチビどうすんだ?」
「見たところ足手まといにはならなさそうでな。これは推測だが、魔法では貴様よりも実力はあるかもしれん」
「俺がそのガキに負けるってのかよ」
「まさか、実戦経験は明らかに貴様が上だ。PTでは別だろうがな」
PT=ペーパーテスト。確かに、とハルニーガは頭を掻いた。意味が分からなくて首を捻るレイカを小脇に抱えた。
「なら、俺と組ませるのが筋じゃねー?」
「貴様に御守ができるとは到底思えんが?」
「自分の身くらい自分で守れますぇ」
「って、ガキも言ってるし、平気だろ」
「まぁいい。だが、忘れるなよ。俺らの目的は『リトアと合流すること』だ」
「わーってるよ」
「はい、どす」
ギシャアアアアァァァァァーーーー
校庭で巨大な蛇が跳ねる。自力で飛んだのではなく、何かに押し上げられた感じだった。
「ふん、探す手間が省けた」
「あそこだな」
「お兄ちゃん、大丈夫やろか」
それぞれこんなことを呟いてから校庭に向かって走り出した。
続く
「で、あっちの森で先輩が戦ってはる、と」
銃火器どころか剣も使わないのでレイカの位置からではどうやってもわからない。
チュッドォォオオオオオーーーーン
咄嗟に給水機の上から離脱する。校舎の裏手側からだ。上から覗くと何かがズルリと動くのが見えた。引っ込むと同時に追加の爆撃が起き、何かが外に飛び出してきた。グネグネと蠢くそれは確かに蛇だった。胴回り50cmはあろう大物だ。
「バジリスク本当に居たんやなぁ」
「貴様、そこで何をしている!」
グイッと掴まれ、レイカは屋上まで戻された。投げ捨てられ、受け身を取る。
「会長はんの乱暴!」
「ふん、命があるだけ良しと思え」
「バジリスクはん、強い?」
「・・・そこそこと言ったところだ」
どうやら手間取っているようだ。校内に設置された店や展示物を守りながら戦っているのだろう。
「ウォォオオリャァァアアアアア!!!」
聞き覚えのある気合と共に窓から何かが吹き飛んで行った。窓ガラスと壁の一部、巨大な蛇、そしてたこ焼きと書かれた屋台。
「オルァ、押し出してやったぜ」
「貴様、我が陣営の店を!」
「先にこっちの展示教室爆破したのはそっちじゃねーか!」
「守りながら戦ってはったんじゃ?」
「「そんなみみっちいこと誰がするか!!」」
準備をしていた生徒が聞いたら涙目だろう言葉を両リーダーともアッサリと暴露した。レイカはそれ以上追従するのを止めた。
「お兄ちゃんは?」
「そういえば、見かけねーな」
「そっちで戦っていたのではなかったのか?」
どうも雲行きがおかしい。おかしいと言えば、
「ハルニーガはんはどうしてサングラスしてはるの?」
ハッキリ言ってガラがさらに悪くなっている。
「何か知らねーが、リトアがかけとけってきかなくってよ。おめーだってしてるじゃねーか。人のこと言えんのかよ」
昨日生徒会長が石化しなかった。その訳に視線を遮る何かが目と目の間にあったと考えられる。それがメガネだ。カズとレイカは視線が合ったわけではないので石化しなかったと考えられる。レイカのメガネは一週目の時にカトレアに貰ったゾンビメガネだ。見る者全てゾンビになるという優れもので、これのおかげで二人との会話もスムーズに進む。
「そのリトアはどこにいる?」
「ああ、知らねーよ!」
ハルニーガが怒鳴ったのに答えるかのように校舎が左右に揺れた。積んであったキャベツが倒れてきて三人の頭に当たる。
「魔物が外に出たな」
「魔法の動きがないぞ。あいつ何やってんだ?!」
「お兄ちゃんたしか魔法使えへんよ」
「「はぁ??」」
驚愕の声は見事に重なった。
「魔法が使えない?!マジかよ!!」
「なら、あいつはマジックアイテムだけで爆発を起こしているのか」
生徒会長は鋭かった。
「無茶苦茶じゃねーか、それ」
「マイナーだが、爆薬というものもある」
「なぁ、校舎壊されて不安やないの?」
「問題ねーって」
「あいつが何とかすると言っていたからな」
どうやらこの二人、リトアのことを完全に信頼しきっているようだ。だが、今静かなのを考えると、リトアは炙り出しで校舎から追い出そうとしていたのではないだろうか。それらしい道具がそこに転がっている。おそらく校舎の損傷はリトアにとっても想定外のことではないだろうか。事象をなかったことにする魔法等レイカは聞いたことがなかった。
「おいこら」
外に出ようとしたレイカだったが、ハルニーガに首根っこを掴まれて阻止された。
「何やってんだ?!危ねーだろが!!」
「お兄ちゃんのお手伝いに行かな」
「お前が行っても仕方がないだろーが。おら、暴れんな!」
「うち魔法使えはるもん」
「ふむ、防護壁は張れるか?」
風属性は攻守ともにバランスがとれている。鎌鼬などの斬効果がある攻撃から、風纏いなどの弾き飛ばし効果のあるシールドまで。まさに多種多様だ。残留魔力を考慮してからレイカは言った。
「張れます」
「よし、お前は俺の傍にいろ。命令だ!」
「はぁ、そんなチビどうすんだ?」
「見たところ足手まといにはならなさそうでな。これは推測だが、魔法では貴様よりも実力はあるかもしれん」
「俺がそのガキに負けるってのかよ」
「まさか、実戦経験は明らかに貴様が上だ。PTでは別だろうがな」
PT=ペーパーテスト。確かに、とハルニーガは頭を掻いた。意味が分からなくて首を捻るレイカを小脇に抱えた。
「なら、俺と組ませるのが筋じゃねー?」
「貴様に御守ができるとは到底思えんが?」
「自分の身くらい自分で守れますぇ」
「って、ガキも言ってるし、平気だろ」
「まぁいい。だが、忘れるなよ。俺らの目的は『リトアと合流すること』だ」
「わーってるよ」
「はい、どす」
ギシャアアアアァァァァァーーーー
校庭で巨大な蛇が跳ねる。自力で飛んだのではなく、何かに押し上げられた感じだった。
「ふん、探す手間が省けた」
「あそこだな」
「お兄ちゃん、大丈夫やろか」
それぞれこんなことを呟いてから校庭に向かって走り出した。
続く
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