異世界の学園にて学園生活を謳歌するはずだった

シロ

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1、始まりの逃避とウサギの国での活劇

ウサギ、熊と化す

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 その頃、イライラが募っていくイスカは机の周りを行ったり来たりしていた。その姿は差し詰めオリの中で常動行動を行なうことでストレスを緩和する熊だ。
「あー、もうジッとしていられない。探しにいくわ」
「どこにだ」
「それを探しに行くって言ってんのよ」
「入れ違いになるだろ・・・これ言うのもう7回目だぞ。いい加減落ち着け」
調べ疲れもあり呆れながらロイズが言うと赤い瞳を怒りに燃やしたイスカに睨まれた。
「落ち着いてなんかいられないわよ。あんたは攫われたレイカや行方不明のロンが心配じゃないの」
「ロンは心配だが、レイカは大丈夫だろう。お前らの態度を見ると人質としての価値が十分ありそうだしな。そもそも面倒な誘拐という方法をとってんだ。死に至る怪我を受けることはまずないと思うぞ。危惧すべき事態が起こらなければ、ロンも心配ないのだが」
  ピロリロリ~、ピロリロリ~
突然、無機な電子音が部屋に響く。何の音かとイスカが疑問に思っているとロイズはポケットから小さな装置を取り出した。携帯電話である。画面には封筒のマークが付いている。メールと開くとロイズの口端が上がった。
「それが2人だけの秘密情報交換の正体な訳ね?どういう仕組みか知らないけど、その道具を使って遠距離でのタイムリーな会話や手紙のやり取りができるでしょう。レイカに見せてもらった携帯電話に似てるわ。使えるって事はおそらく別種ね。何かわかったの?」
「ああ、ロンからだ。レイカの脱獄に成功し、こっちに向かっているんだと」
「これだけの文面でよくわかるわね」
画面には件名に“無事”、本文に“戻る”とだけ書かれた簡素な文であった。
いや、どちらとも文といえない。単語だ。
「培ってきた推理力とあいつとの付き合いに基づく経験、そして友情だな」
「あれ、てっきり愛って言うかと思ったのに。意外と奥ゆかしいのね」
「あいつは出身すらよくわからねーんだよ。こっちの常識が通じてないからエターナニルではない、って程度の認識だ。カーレントに詳しいからここに来るまではそっちで暮らしてたんじゃないのか。それに色々深い悩みもあるようだしな。まぁ、言葉が通じないわけじゃないんだ。今まで通りライバルを牽制しつつ気楽にやってくさ」
席を立ったロイズは外を眺めながら大きな欠伸を1つ吐きながら横目でイスカを見た。
ロイズの方から見たらイスカは人のことより自分の心配をすべきではないだろうか。見たところ、対価として支払った分に見合うだけの成果を得ているとはいくら負い目に計算してもとても言い難い。
「しかし、よくそんな決断できたよな」
「あら、あなただって無機物になれるんだから似たようなものじゃない」
使用用途が違うとは意外か見た目通りかプライドの高いロイズが言う筈が無かった。ロボットの体は研究生であるにも関わらず初級学年の授業を受けなければならなくなった時に急拵えした仮の器である。嫌いな論理系の科目をサボりまくったしわ寄せが来たのだ。
他の人がこの事実を知ったら、非常にくだらない理由でカーレントの科学技術とエターナニルの魔法技術をミックスした高度な憑依用自動人型魔導具を作り出したのかと驚愕しつつも呆れるだろう。何故彼が学園に入るより難関で有名な学園内研究室提供争いに勝利したかがよくわかる。
「そもそも、獣人族って今の人の姿とは別にそれぞれ固有の獣の姿になれるんだから、今更もう1つ増えたところでどうって事ないし。この姿だからこその生活だもの。今を失うくらいなら今までの過去、全てを捨ててやるわ」
「そのことなら大いに同意できる」
「さて、ロンの行動を詳しく研究したロイズ博士なら彼がとりそうな逃走ルートもわかってるんでしょ。我らが姫君を迎えに参ろうじゃない」
やはりそうきたかと思いつつもロイズはこの付近の略地図を机の上に広げた。
「こっちに心配をかけているのは重々承知だろう。自分が危険には無頓着でも他人第一で行動するあいつのことだ。レイカの体への負担を念頭に置かずに行動しているはずがない。空気洗浄はあいつの十八番。火山ガスも問題ない状況で隠れながら移動するなら、このルートだな。今から行くとしたら合流地点は、ここだ」
灰色の指が示した場所は、同じ巨大なクレーター内にある国外れの中岳火口の印が記されていた。


                             続く

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