上 下
208 / 213
最終章

9-6

しおりを挟む
「…………っ海吏……」

「隼先輩っ……」


二人の荒い息が重なる。

「んっ……」

ギュウと押し付けた唇は、互いの間にある空気すらも潰してしまうほど密着している。


たった一度口付けただけで、俺の体には電流が走った。

それはあの日重なり合った時の感覚を一気に巻き戻すかのような激しさだった。


「……海吏………やっとできたね……俺、このときをずっと待ってたんだよ…」


距離のない隼先輩の体の火照りが、今の言葉と一緒になって俺にダイレクトに伝わる。

隼先輩は潤んだ目を向け頬を火照らせ、言葉通り、俺の体を待っていた。


「俺も……やっと約束が果たせて…よかったです……!」


俺のその言葉を最後に、2人は人間を辞め、本能のままに求め合う獣となったのだった。










「海吏…結局今日、ずっとここにいてよかったの?」

気づけば時は夕方。

俺は巡回の途中で隼先輩の家に寄っただけなのに、ずっとここに留まってしまった。


「あー…多分怒られるでしょうけど、まあ何とかなりますよ。俺、怒られるのは慣れてるんで。」

「ええ……そういうのは慣れちゃダメだよ?」

「昔からそうじゃないっすか!…にしても俺、やっぱり隼先輩とするの好きです。めちゃくちゃ幸せ感じます」

「えっ…いきなりなんで……」

「いきなりじゃないですよ。俺は隼先輩のことも、隼先輩とのエッチも大好きです。」



オレンジ色の夕焼けは、隼先輩の家のリビングを明るく照らす。

見るからに幸せに溢れるこの家は、俺と隼先輩が一般的な意味では決して結ばれないことを暗に物語っている。

だけど俺も隼先輩も……

二人の空間にいる時だけは、普段持ち合わせているはずの倫理観やモラルから抜け出してしまうのだった。

しおりを挟む

処理中です...