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最終章

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「奥山先生、ありがとうございました。俺、先生のおかげで勇気出せました」

店を出て少し歩いた先の交差点。

信号待ちの時、隼が俺に向かって言ってきた。


「一体何があったんだ…?」

「実は俺……店長からたまに無理矢理…その、触られたりしてたんです。何回か断ってるんですけど、なかなか止まらなくて…」


隼の説明に俺は驚いていた。

さっきの声を聞くだけでは、まるで隼も同意しているかのようだったからだ。

「でも、さっき店長からもうしないって言葉を引き出したので大丈夫です!奥山先生があそこにいてくれたおかげです!ありがとうございます!」


俺の顔が、隼を心配してるように見えたのだろう。

隼はまるで中学でこいつの担任をしていた時を思い出させるかのような純朴な笑顔で俺に礼を言う。


「別に構わないが……お前、よく俺に抱きついてきたりできたな。……普通は躊躇うと思うのだが…」



俺はあの時、隼を無理矢理犯したのだ。

今の店長としていることは変わらない。

それなのに……


「再会してからの奥山先生を見てると、もう安心していいんだなって思いました!元々、俺は奥山先生を信頼してたじゃないですか。」


口元には笑顔を浮かばせながらもどこか真面目に俺を見据える目は、あの日の隼と何も変わらない。

確かにあの頃、隼は俺を信頼し、仲良くなりたいと言ってくれた唯一の生徒だった。


それを一度踏みにじった俺は、二度と同じ気持ちを向けてもらえるとは思っていなかった。

なのに……


「隼、礼を言うべきはこっちだよ。……ありがとう」


俺の言葉に、隼は優しく微笑んだ。

その笑顔には、全てを赦しすべてを広く受け入れる隼の澄んだ心が映されているようだった。

しかし……


「それにああしたほうが、店長もショックを受けると思いません…?」


そう言いながら上目遣いで口元を緩める隼の表情は、不覚にもあの日を思い出させるような艷やかな雰囲気を持っている。


そうだ……

これがこいつの、真骨頂。


一見純白な天使みたいな笑顔を振りまく優しい奴。

しかし少しでも近づくと、容赦なくその毒牙を向けてくる。


だけど俺は、そんな大人になった隼に抱きつかれたあの感覚を忘れられず……


再び隼と裸で抱き合える日を心待ちにしてしまうのをやめられなかったのだ。






数日後…


「ちょっと、何事よ!」

パートのお局が、出勤するなり店長の代理が来ていることに驚いていた。

「店長……ストーカーと強姦未遂で捕まるんですって。だから支店から急遽代理の店長さんが来てるのよ」


もう一人のオバちゃんがお局さんに説明する。


「えええええ~何よストーカーって…あの人奥さんいるわよね?」

「そうなんだけど……何でもストーカーの被害は隼くんらしいわ」

「隼くんが!?!?そうなのね……ついに店長まで…」


そう言って驚いた"ふり"をしたお局は、自分の持つバッグから落としそうになったものを慌てて隠している。

だけど俺の目に一瞬だけ写ったそれは、俺の目に焼き付いてしまった。


なぜならお局が隠し持っているのは、隼をデカデカと待ち受けにしたスマホだったからだ。

それも、角度や画質的に、明らかにこっそり撮ったものだ。



(隼…やはり俺が担任時代に危惧したように、とんでもない男になったものだな…)


俺は一度あいつに人生を壊されているからこそ、店長やお局みたいな人間の気持ちもよく分かる。


(でも…せいぜい、俺レベルには身を滅ぼすなよ…)


そんなことを心の中で思いながら、俺はあの日抱いた隼への感情を、まるで自分のものではないかのように店長たちに擦り付けたまま仕事に取り掛かるのだった。
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