176 / 213
最終章
3-3
しおりを挟む
「お前…これは…」
「みんなから、先生への気持ちです。それと、俺たちはここまで来られたんだっていうのを少しでも伝えたくて、全てを1冊に綴じました。」
隼の言葉にみんなも頷き微笑むのを、俺は驚いて見ていた。
そしてそのまま、目線を手元の冊子へと移す。
その冊子には……
目の前にいる4人を筆頭に、俺が教えていた男子ソフトテニス部のみんなからの直筆のメッセージと、彼らの成長が見てわかるような沢山の写真が綴られていた。
「隼………」
「佐伯先生。俺たちは、もう大人になりました。……あの頃できなかった事も、沢山できるようになりました。……こうして先生に気持ちを伝えることも…きっと今だからこそできるんです。あの頃の未熟で子供な俺らのままでは、きっとこんなことできませんでした。」
隼の言う通り、穏やかな声の奥には強くて揺るぎない信念のようなものが感じられる。
「だから、俺たちよりもずっと大人な先生は…俺たちよりも、もっとずっと色んなことができるはずです。自分を信じさえすれば、先生なら何だってできると思います」
俺の目を射抜くかのような真っ直ぐな眼差しは、強く優しい言葉と共に俺に響く。
同意するかのように隼の後ろで頷く3人の目の色もまた、俺を素直に信じ、期待し、ついてきてくれてたあの頃と変わらないものを宿していた。
「先生………本当に、お世話になりました」
何も言えないでいる俺に、隼が言う。
そしてその言葉と共に、4人全員が俺に礼をする。
まるであの頃…
俺はこの光景に、こいつらが中学生だった頃に戻ったような錯覚を起こしてしまった。
まだまだ子供で幼くて、未熟で発展途上のこいつらを、愛しく思っていたあの頃の自分に戻ったみたいだった。
だけど、それは幻想に過ぎない。
俺はあの頃のまま……
こいつらの成長を勝手に止めていたのだ。
頭の中で思い描くのは中学時代のこいつらで、そこに混ざって共に部活をして汗を流す、あの頃の俺だった。
だけど、もう俺もこいつらも……
「大人になったな、お前ら。……卒業おめでとう」
背が伸びたとか、声が低くなったとか、体つきがガッシリしてきたとか、そんなことだけではない。
俺は今、目の前にいるこいつらに流れた月日と成長をひしひしと感じるしかなかった。
「ありがとうございます!」
そう言って満面の笑顔を向けるこいつらは、きっとこれからいくらでも成長していける。
俺があの日壊して崩した信頼関係を、こいつらは自分たちの力で築き上げることが出来たのだから。
そう思うと、素直に笑みが零れた。
俺はこれから、俺なりのやり方でこいつらと向き合っていけばいいんだ…
そう思うことができたからだった。
「みんなから、先生への気持ちです。それと、俺たちはここまで来られたんだっていうのを少しでも伝えたくて、全てを1冊に綴じました。」
隼の言葉にみんなも頷き微笑むのを、俺は驚いて見ていた。
そしてそのまま、目線を手元の冊子へと移す。
その冊子には……
目の前にいる4人を筆頭に、俺が教えていた男子ソフトテニス部のみんなからの直筆のメッセージと、彼らの成長が見てわかるような沢山の写真が綴られていた。
「隼………」
「佐伯先生。俺たちは、もう大人になりました。……あの頃できなかった事も、沢山できるようになりました。……こうして先生に気持ちを伝えることも…きっと今だからこそできるんです。あの頃の未熟で子供な俺らのままでは、きっとこんなことできませんでした。」
隼の言う通り、穏やかな声の奥には強くて揺るぎない信念のようなものが感じられる。
「だから、俺たちよりもずっと大人な先生は…俺たちよりも、もっとずっと色んなことができるはずです。自分を信じさえすれば、先生なら何だってできると思います」
俺の目を射抜くかのような真っ直ぐな眼差しは、強く優しい言葉と共に俺に響く。
同意するかのように隼の後ろで頷く3人の目の色もまた、俺を素直に信じ、期待し、ついてきてくれてたあの頃と変わらないものを宿していた。
「先生………本当に、お世話になりました」
何も言えないでいる俺に、隼が言う。
そしてその言葉と共に、4人全員が俺に礼をする。
まるであの頃…
俺はこの光景に、こいつらが中学生だった頃に戻ったような錯覚を起こしてしまった。
まだまだ子供で幼くて、未熟で発展途上のこいつらを、愛しく思っていたあの頃の自分に戻ったみたいだった。
だけど、それは幻想に過ぎない。
俺はあの頃のまま……
こいつらの成長を勝手に止めていたのだ。
頭の中で思い描くのは中学時代のこいつらで、そこに混ざって共に部活をして汗を流す、あの頃の俺だった。
だけど、もう俺もこいつらも……
「大人になったな、お前ら。……卒業おめでとう」
背が伸びたとか、声が低くなったとか、体つきがガッシリしてきたとか、そんなことだけではない。
俺は今、目の前にいるこいつらに流れた月日と成長をひしひしと感じるしかなかった。
「ありがとうございます!」
そう言って満面の笑顔を向けるこいつらは、きっとこれからいくらでも成長していける。
俺があの日壊して崩した信頼関係を、こいつらは自分たちの力で築き上げることが出来たのだから。
そう思うと、素直に笑みが零れた。
俺はこれから、俺なりのやり方でこいつらと向き合っていけばいいんだ…
そう思うことができたからだった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】今夜、私は義父に抱かれる
umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。
一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。
二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。
【共通】
*中世欧州風ファンタジー。
*立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。
*女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。
*一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。
*ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。
※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる