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最終章

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「ありがとうございます。でも僕は……この日記は、ぜひあなたに持っていて貰いたいです」


私の予想に反して、朗らかな笑顔をした隼くんがそう言ってきた。


「確かに僕は、ずっと菜摘さんのことも愛莉さんのことも……自分のせいだと思って責めていました。だけど……この日記を読んで、菜摘さんの気持ちを知って、はっきりとそれが否定されたので…僕はもうそれだけで満足です」


時々目を日記の表紙に遣り、柔らかに言葉を紡ぐ。


「でも…菜摘は隼くんに持ってて欲しいと思ってるんじゃないのかな…?」

日記に書かれているのは、溢れんばかりの隼くんへの愛情。

ありふれた日常の中に散りばめられる、たった1度きりの奇跡のような時間。

偽りのないありのままの気持ちに、2人で描く未来への希望。


どれをとっても、あの頃の菜摘が、いかに隼くんに思い焦がれていたのかが分かる。


「菜月さん…僕は…」


はっとするような美しい声で私の名前を呼ぶ。

突然のことに、私は思わず息を呑む。



「僕は……もう、前を向いて歩いているんです」


瞬きすらもできないくらいの強い眼差しが私に注がれる。

隼くんが纏う優しげで柔らかい雰囲気が、一瞬だけ他の色に染まった気がした。



「僕には今、大好きな人がいます。大切に思う友達や後輩がいます。尊敬する先輩や大人がいて、憧れや夢もあります。それは全部、あの頃菜摘さんに救われていたおかげなんです。あの頃もし、僕を好きになってくれたり、優しく声をかけてくれたりしていなかったら…僕はきっと、今をこんなに幸せに過ごせていないです。」


真っ直ぐに胸に刺さる隼くんの言葉には、嘘はなかった。

だけどその目線は、私よりもずっと奥…


遠く前を見つめていた。
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