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最終章

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「海吏……麻友さんが俺に勇気を出して本当の事を話してくれたことから始まったんだ。あの日、海吏が麻友さんたちを守ったように…麻友さんも、海吏のことを守り抜いたんだよ」


隼くんの優しい声が届く。

海吏くんはその言葉に、涙を流していた。


「隼先輩……麻友…」


震える声で私たちの名前を呼ぶ彼から伝わるのは、この2年間、私たちに伝えたかったであろう沢山の気持ち。


だけどそれらは、これからゆっくり伝え合っていけばいい。



「ありがとうございます…」


海吏くんは私と隼くんに頭を下げる。

そこから零れ落ちる涙の粒は、地面に落ちて染み込むように広がる。



「海吏、帰ろう……」


低くなってる海吏くんの背中を優しく叩き、隼くんが囁いた。


海吏くんは顔を上げ、今まで見た中で、最も美しい笑顔で頷いた。





あの日、自分と隼くんと、海吏を信じてよかった……


私はあの日の自分を心から褒めた。


そして、空を見上げる。



(愛莉……私たちは、もう前に進むよ……だから愛莉も一緒に……)


最後の最後の瞬間に、全てを思い出し自分の罪を責め、亡くなってしまった愛莉に心の中で話しかけた。



青く済んだ秋空は、涼しい風を運んできた。



その風に乗ってほんの一瞬私の脳裏を掠めたのは、全力で恋して傷ついてふざけて笑い合った私と愛莉の姿。


同じ中学の制服を着て、部室に忍び込みスリルを共有したあの日の思い出。



今までは思いだすことすら避けてきた2人の姿を、私は頭に浮かべて微笑むことが出来た。






まだまだ、これからだ………





私の新しい人生は、今日また改めてスタートしたのだった。
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