その男、人の人生を狂わせるので注意が必要

いちごみるく

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元いじめっ子の話

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しばらく涙と鼻水が止まらなかった。

そんなグチャグチャな私と、隼くんは何も言わずに側にいてくれた。

隣に隼くんがいる…

ただそれだけで、とてつもない安心感を得た。





「……ごめんね隼くん。ス○バで号泣とか流石に引いたよね?」

私はまだ残る鼻声と涙目のまま、隼くんに話しかけた。

「引いてないよ!だけどそのハンカチ…」

隼くんは、私が自分の涙で濡らしまくった隼くんとおそろいのハンカチを見て言葉を止めた。

「汚くしちゃったね。けど洗えば大丈夫!」

私は笑顔を作って少し明るく言った。

「じゃあ涙で濡らすのは今日で最後ね?俺もこのハンカチを濡らしちゃう時はあるけど」

私につられたように、隼くんも柔らかな笑顔のまま言う。

「俺がこのハンカチを濡らすのは嬉し涙でだけだよ。優勝した時とか、何かがすごく上手く行ったときとか。だから、渚さんもこれからはそういう涙で濡らして欲しいな」

私の心だけでなく、私達を繋いだこのハンカチに対する思い出までも優しく変えようとしてくれる。

そんな隼くんに、私は思わず笑みが零れた。


あの日…お兄ちゃんから1万円でこれを奪い返して本当に良かった。

このハンカチには、1万なんかじゃ到底足りないくらいの価値があるんだから。




「あとね、実は俺…一回だけこのハンカチをなくしかけたことがあったんだ」

「そうだったの……?」

「うん…。中2の春休みの遠征の前に、部室で失くしちゃったんだ。大事な遠征だから絶対に持って行きたかったんだけど…結局部室を探しても、行くまでには見つけられなくてさ」

残念そうに呟く隼くんは、その当時を思い出しながら時々目を細めている。

「だけど…遠征から帰ってきた時に、あの4人で部室をもう一回探したんだ。そしたら…五郎がこれを見つけてくれたんだよ…!」

嬉しそうに目を輝かせて話す隼くんの言葉に、私は少し驚いた。

「ええ!五郎くんが?」

「そう!俺一人じゃ見つけられなかったのに。これって、なんかすごいよね」


五郎くんは、今私と付き合っている私の彼氏だ。

隼くんのハンカチを見つけたのは私と付き合うずっと前。


「そうだね……本当にすごいね、そのハンカチ」


私は思わずフッと笑った。

それは、今日初めて心を軽くして浮かべられた笑顔だった。




私は、隼くんと関わると怖いとか思っていた自分を恥ずかしくなった。

隼くんに関わって身を滅ぼすとか言っている人たちは、皆自分のせいなんだ。

決して隼くんのせいなんかじゃない。



私は、もう二度と隼くんを疑ったり傷つけたりしない。

どんな時でも味方で有り続ける。


その白いハンカチに負けないように……



心の中で、私は強く強くそう思ったのだった。




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