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元いじめっ子の話

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「ただいまー…」

気乗りしないまま小さい声で挨拶し、私は部屋に直行する。


「おう渚!昨日パチンコで2万消したんだ。バイト代入っただろ?1万でいいから貸してくんね?」

私の帰宅を察知して、兄がすかさずリビングから出てくる。

「……はぁ…あのね、そう言って先月も返してくれなかったよね?今月は無理よ。私だってお金は自分の事に使いたいの」


私は兄を押しのけて2階へ向かおうとした。

「ああ?テメェ兄貴に向かってなんだよその口の利き方は!!」

いつものように激昂する兄の声を、私は背中で聞いていた。


「おい渚……テメェ、これ……大事なんじゃねーの?」


ふと兄の方を見ると、兄が持っていたのは…


「だめっ!!それだけは取らないで!」


私は登りかけていた階段を降りて、兄の手からそれを奪い返そうとした。

「これを返してほしけりゃ今すぐ一万寄越せよ。」


兄は必死になって奪い返そうとする私を見下して、そのものを高い位置に釣り上げながらニヤニヤしている。


「………最低……」


そんなことを言いながら、私は兄に1万円札を渡す。


「おう。サンキュー!」

兄はそれだけ言って、私からお札をぶん取ったと同時に持っていた私の物を床に放り投げて家から出ていった。



(……よかった、まだ汚くはされてない…)


私はすぐに床に落とされた物を拾って安心した。



それは……



私の中に一生仕舞っておくはずだった、あの思い出が滲んでいる物だから……
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