上 下
71 / 213
5人目:平凡後輩の話

24

しおりを挟む
「ちゃんと自分でしたことを説明して、向き合って。このまま放置するわけにもいかないでしょ?」


恐怖に怯えながらも、俺の目をしっかりと見つめながら説得する。

隼先輩はこんな時まで真面目でもっともなことを言う。



「先輩、俺はもう犯罪者です。もしかしたら二度と隼先輩にも会えないかもしれません。けど、それは隼先輩……あなたがやったことですよ?隼先輩が、犯罪者の俺を作り出したんですよ?」


俺も隼先輩の目をしっかりと見返して、沸々と湧き上がる感情を言葉にする。


「先輩が……俺をあんなに好きにさせるから……先輩が……俺に自信をつけさせてくれたから………先輩が………あんな奴等よりも、俺をすごいと言ってくれたから………」


俺の狂いそうな気持ちは隼先輩へと向かう。

先輩は、目を見開いて驚きながら俺の言葉を聞いている。


「俺は、もう俺と先輩の邪魔をしたり、悪く言ったりする奴らを二度と許さないって決めたんです。……それは、これからも変わりませんよ?」



俺が自分の罪を隼先輩と共有しようとしていることに、隼先輩は驚きを隠せないでいた。

それはまあ、ごもっともな反応た。

隼先輩だって、俺にこうして欲しくて俺を変えようとしたんじゃない。


だけど、隼先輩の無償の愛と相手への思いやりは、時にはこれほどまでに残酷な形を表すのだということを知ってほしかった。


隼先輩は大きな目をさらに見開いて、俺の腕を掴む手に力を入れた。


「……海吏……俺は…………」


更に手に力が入る。

震えるその手と俯く顔が、隼先輩の次の言葉を詰まらせている。

涙を床に落としたまま、隼先輩は俺に対する怒りや絶望、哀しみ、憐れみ、色んな感情を何も言わずに表していた。


俺はただ、隼先輩の激しい感情を震える手から受け取っていた。





「俺の人生、ほんとに終わったんだな………」



俺の口をついて出たのは、不思議と常に感じる無気力感と謎の解放感だった。



俺のその言葉に、隼先輩は声を上げて泣き出した。



俺は、一番幸せになってほしいと願った唯一の人を、自分の行為によって泣かせている。


最後まで、俺は出来損ないの後輩だった。


だけど、きっと隼先輩の中で俺は二度と忘れられない存在になるだろう。


隼先輩の前に現れる有象無象の中の一人に成り下がらないでいられるという幸福感に包まれただけで、俺は満足だった。




たとえそれが、隼先輩を苦しめようとも……






俺は結局、自己本意なまま、何も変わることはできていなかったんだ。





「俺は…お前を一番の後輩だと思ってるよ……」



だけど俺の耳に入る隼先輩のさっきの言葉の続きが、俺の気持ちをまた狂わせる。





幻聴か?妄想か?空耳か?



どれをとっても、この状況でそれが聞こえるということは、俺は隼先輩にそう言ってもらいたかった、ただその気持ちが一番強かったということを認めざるを得ない。






「どっちも、とち狂ってますね」



俺は隼先輩の手を握り、そう呟いた。



隼先輩は、肯定の沈黙をしたまま動かないでいる。



2人だけの狂いまくってるこの空間は、最後の戸締まりをしにきた先生たちに水を差されるその瞬間まで続いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンにフラれた部下の女の子を堪能する上司の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

おむつ体験実習レポート

yoshieeesan
現代文学
以下は、看護や介護の職場の研修で時たま行われる研修に対するレポートの一例です。当然課題である実習レポートに複製して用いたりはしないでください。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...