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5人目:平凡後輩の話
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「ちゃんと自分でしたことを説明して、向き合って。このまま放置するわけにもいかないでしょ?」
恐怖に怯えながらも、俺の目をしっかりと見つめながら説得する。
隼先輩はこんな時まで真面目でもっともなことを言う。
「先輩、俺はもう犯罪者です。もしかしたら二度と隼先輩にも会えないかもしれません。けど、それは隼先輩……あなたがやったことですよ?隼先輩が、犯罪者の俺を作り出したんですよ?」
俺も隼先輩の目をしっかりと見返して、沸々と湧き上がる感情を言葉にする。
「先輩が……俺をあんなに好きにさせるから……先輩が……俺に自信をつけさせてくれたから………先輩が………あんな奴等よりも、俺をすごいと言ってくれたから………」
俺の狂いそうな気持ちは隼先輩へと向かう。
先輩は、目を見開いて驚きながら俺の言葉を聞いている。
「俺は、もう俺と先輩の邪魔をしたり、悪く言ったりする奴らを二度と許さないって決めたんです。……それは、これからも変わりませんよ?」
俺が自分の罪を隼先輩と共有しようとしていることに、隼先輩は驚きを隠せないでいた。
それはまあ、ごもっともな反応た。
隼先輩だって、俺にこうして欲しくて俺を変えようとしたんじゃない。
だけど、隼先輩の無償の愛と相手への思いやりは、時にはこれほどまでに残酷な形を表すのだということを知ってほしかった。
隼先輩は大きな目をさらに見開いて、俺の腕を掴む手に力を入れた。
「……海吏……俺は…………」
更に手に力が入る。
震えるその手と俯く顔が、隼先輩の次の言葉を詰まらせている。
涙を床に落としたまま、隼先輩は俺に対する怒りや絶望、哀しみ、憐れみ、色んな感情を何も言わずに表していた。
俺はただ、隼先輩の激しい感情を震える手から受け取っていた。
「俺の人生、ほんとに終わったんだな………」
俺の口をついて出たのは、不思議と常に感じる無気力感と謎の解放感だった。
俺のその言葉に、隼先輩は声を上げて泣き出した。
俺は、一番幸せになってほしいと願った唯一の人を、自分の行為によって泣かせている。
最後まで、俺は出来損ないの後輩だった。
だけど、きっと隼先輩の中で俺は二度と忘れられない存在になるだろう。
隼先輩の前に現れる有象無象の中の一人に成り下がらないでいられるという幸福感に包まれただけで、俺は満足だった。
たとえそれが、隼先輩を苦しめようとも……
俺は結局、自己本意なまま、何も変わることはできていなかったんだ。
「俺は…お前を一番の後輩だと思ってるよ……」
だけど俺の耳に入る隼先輩のさっきの言葉の続きが、俺の気持ちをまた狂わせる。
幻聴か?妄想か?空耳か?
どれをとっても、この状況でそれが聞こえるということは、俺は隼先輩にそう言ってもらいたかった、ただその気持ちが一番強かったということを認めざるを得ない。
「どっちも、とち狂ってますね」
俺は隼先輩の手を握り、そう呟いた。
隼先輩は、肯定の沈黙をしたまま動かないでいる。
2人だけの狂いまくってるこの空間は、最後の戸締まりをしにきた先生たちに水を差されるその瞬間まで続いていた。
恐怖に怯えながらも、俺の目をしっかりと見つめながら説得する。
隼先輩はこんな時まで真面目でもっともなことを言う。
「先輩、俺はもう犯罪者です。もしかしたら二度と隼先輩にも会えないかもしれません。けど、それは隼先輩……あなたがやったことですよ?隼先輩が、犯罪者の俺を作り出したんですよ?」
俺も隼先輩の目をしっかりと見返して、沸々と湧き上がる感情を言葉にする。
「先輩が……俺をあんなに好きにさせるから……先輩が……俺に自信をつけさせてくれたから………先輩が………あんな奴等よりも、俺をすごいと言ってくれたから………」
俺の狂いそうな気持ちは隼先輩へと向かう。
先輩は、目を見開いて驚きながら俺の言葉を聞いている。
「俺は、もう俺と先輩の邪魔をしたり、悪く言ったりする奴らを二度と許さないって決めたんです。……それは、これからも変わりませんよ?」
俺が自分の罪を隼先輩と共有しようとしていることに、隼先輩は驚きを隠せないでいた。
それはまあ、ごもっともな反応た。
隼先輩だって、俺にこうして欲しくて俺を変えようとしたんじゃない。
だけど、隼先輩の無償の愛と相手への思いやりは、時にはこれほどまでに残酷な形を表すのだということを知ってほしかった。
隼先輩は大きな目をさらに見開いて、俺の腕を掴む手に力を入れた。
「……海吏……俺は…………」
更に手に力が入る。
震えるその手と俯く顔が、隼先輩の次の言葉を詰まらせている。
涙を床に落としたまま、隼先輩は俺に対する怒りや絶望、哀しみ、憐れみ、色んな感情を何も言わずに表していた。
俺はただ、隼先輩の激しい感情を震える手から受け取っていた。
「俺の人生、ほんとに終わったんだな………」
俺の口をついて出たのは、不思議と常に感じる無気力感と謎の解放感だった。
俺のその言葉に、隼先輩は声を上げて泣き出した。
俺は、一番幸せになってほしいと願った唯一の人を、自分の行為によって泣かせている。
最後まで、俺は出来損ないの後輩だった。
だけど、きっと隼先輩の中で俺は二度と忘れられない存在になるだろう。
隼先輩の前に現れる有象無象の中の一人に成り下がらないでいられるという幸福感に包まれただけで、俺は満足だった。
たとえそれが、隼先輩を苦しめようとも……
俺は結局、自己本意なまま、何も変わることはできていなかったんだ。
「俺は…お前を一番の後輩だと思ってるよ……」
だけど俺の耳に入る隼先輩のさっきの言葉の続きが、俺の気持ちをまた狂わせる。
幻聴か?妄想か?空耳か?
どれをとっても、この状況でそれが聞こえるということは、俺は隼先輩にそう言ってもらいたかった、ただその気持ちが一番強かったということを認めざるを得ない。
「どっちも、とち狂ってますね」
俺は隼先輩の手を握り、そう呟いた。
隼先輩は、肯定の沈黙をしたまま動かないでいる。
2人だけの狂いまくってるこの空間は、最後の戸締まりをしにきた先生たちに水を差されるその瞬間まで続いていた。
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