その男、人の人生を狂わせるので注意が必要

いちごみるく

文字の大きさ
上 下
67 / 213
5人目:平凡後輩の話

20

しおりを挟む
「………分かった…………」


長い沈黙の後、隼先輩は小さな声でそう言った。


「え!本当にいいんですか!?」

「うん……でもあの、内緒にしてね?」

「もちろんですよっ!!」


口に人差し指を当てて秘密にしてくれと頼む隼先輩の仕草と表情が、とても可愛らしくて思わずキュンとした。

隼先輩に許可をもらえた俺は、嬉しすぎて声が思わず上ずった。



「隼先輩と定期的にできるとか……俺、生きてて良かったです!」

「流石に大袈裟だよー…海吏のその特技が知られれば、すぐにでもできそうだけどね」

「それってつまり俺の体目当ての奴が現れるってことですか?先輩、意外とクズっぽい発言しますねw」

「ええっ!クズだった!?いや、そんなつもりはないんだけど……」

「いやいや梨々先輩という完璧な彼女がいながらも俺や優先輩とこんなことしてるんだから、隼先輩もなかなか既にクズですよww」

「……………そうだね…」

「そんな落ち込まないで下さいって!!先輩くらいのイケメンで純情なほうが逆に不自然ですから!ね?」

「…うーん…」

「安心して下さい。俺はどんな先輩も大好きですから」


先輩をクズ扱いして落ち込ませてから、俺の本当の気持ちを伝える。

隼先輩は俺の言葉にいちいち反応してくれる。


「え……好きって…」

「さっきも言いましたよね?」

「言ってたけど……あれは雰囲気を良くするために言ってくれたとかじゃないの…?」

「何言ってるんですか!俺の本心ですよ?」



俺の言葉に隼先輩はまた大きな黒目を動かす。


この人は、不思議なくらいに「もしかしたら誠実に気持ちを伝えれば自分でも手に入るんじゃないか」と思わせてくれる。


「本気で俺のこと好きなの?」

「はい。大好きですよ」

「先輩として憧れてくれてるとかじゃなくて?」

「それもありますけど、恋愛対象としても大好きです」

「そんな…」

「嫌ですか?こんなダサい後輩に好かれるのは」

「嫌なわけないよ!海吏はダサくないし。かっこいいし頼れる後輩だと思ってるよ」

「先輩、そういうところですよ……どんどん好きになっちゃうじゃないですか……」


そう言って俺は隼先輩の顔に自分の顔を近づける。

咄嗟に目をつぶった隼先輩の唇を、俺の唇で優しく覆う。


「……っ海吏……」

「……先輩………本当に好きです」


俺はまた先輩に唇を重ねる。

至近距離での告白に、隼先輩は顔を赤くして息を呑んだ。

互いの鼓動が重なり合うのが分かるくらい、二人の気持ちは高まっている。


隼先輩は俺を好きな訳ではないと思う。

だけど、俺が作り出す雰囲気と真面目な告白は、隼先輩にきちんと響いているのだろう。


一瞬だけ…


今この瞬間だけでもいいから、隼先輩は俺の気持ちに向き合ってドキドキしてくれればそれでいい。



「………先輩。俺、隼先輩の幸せだけを願ってますから。」


微かに動く隼先輩の柔らかい唇を眺めながら言う。

俺は自分の口からそんな言葉が出てきていることに驚いていた。


今まで、自分のことしか考えていなかった。

他人に興味がなくて、自分がいかに怒られないで済むか、いかに仲間に入れてもらえるか、そんなことしか考えてこなかった。


人を好きになることはあれど、その時ですら自分のことばかり。

どうやったら好かれるのか?どうやったら相手に気に入られるのか?

相手の気持ちや幸せなんて、考えていなかった。


だけど……

隼先輩に関しては、ちがう。

隼先輩のことは、心から幸せになってほしいと思う。

自然とどうやったら隼先輩がより幸せになれるのか、つい考えてしまう。



これは、俺の中では大きな大きな変化であり成長であった。


そして、そんな風に変われる自分のことは好きになれた。


隼先輩は、自分に恋させることで、その相手の自信や気持ちまで変えちゃうすごい人だ。



「…ありがとう海吏。俺も、海吏には幸せになってほしいと思ってるよ」


俺の言葉に頬を赤らめながら優しく微笑む隼先輩。

その柔らかな眼差しは、俺の心の奥にある汚さをすべて浄化してくれる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ワンコインの誘惑

天空
現代文学
 人生一度の失敗で全てが台無しになる。  最底辺の生活まで落ちた人はもう立ち上がれないのか。  全財産を競馬にオールインした男。  賭けたのは誰にも見向きもされない最弱の馬だった。  競馬から始まる人と人の繋がり。人生最大の転換期は案外身近なところに落ちている。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...