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5人目:平凡後輩の話

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「……海吏……!なにしてっ…」

首を振って必死に抵抗しようとする隼先輩の顔を俺は両手で押さえて、次は鼻、その次は耳、そして唇を舐める。


「……っっ海吏……?」


「俺、隼先輩みたいな顔になりたかったです。……大きくて優しくて人を惹き付ける目に、筋が通っててきれいな鼻。形が整ってて思わず触りたくなるような耳。そして、少し厚くて血色のいいぽってりとした唇……全部、俺の理想なんです」


隼先輩の顔は、近くで見れば見るほどうっとりしてしまう。

恍惚とした表情で見惚れながら、隼先輩の顔を手でなぞる。

俺はこの理想の顔を手に入れたくて、今までずっと憧れてきた。


「俺は隼先輩になるための方法を見つけました。」

「俺にならなくても、海吏は海吏のままでいいのに…」

「それ本気で言ってます?俺のままで生きてきて今こんなに惨めなんですよ?」

「考え方次第だよ。俺は今のままの海吏が好きだよ。そう思ってる人は周りにいるはずだよ」

「じゃあ俺と人生交換してくれって言われたらしますか?」


隼先輩は、お人好しだ。

だけど、こんな惨めで悲惨な人生を肯定できるのは、自分の人生が華やかで楽しいことが確定しているからこそ。

余裕があるからこそなんだ。

あくまで人を救うためのボランティアに過ぎない。



「…………ほら。言葉に詰まりますよね。やっぱり俺にはなりたくないんですね」

「なりたくないわけじゃないよ……今まで誰かの人生を生きるって、考えたこともなかったから少し考えてみてただけだよ」

「はいはいそーですか。」

「本当だよ。もし明日海吏になれたとしたら、俺は嬉しいと思う。」

「ここまできてまだ同情する気ですか?毎日怒られて陰口言われて誰にも信頼されなくて地味な生活ですよ?何が嬉しいんですか。」

「同情じゃないよ。そういう思いを沢山してきたってことは、色んなことを乗り越えてきたってことでしょ?人の痛みもわかるし、その分海吏は優しいから。前にも言ったけど、そういう海吏のところはやっぱり俺は好きだから」


この期に及んで、まだ隼先輩はそんなことを言う。

どうして俺なんかにここまで同情してくれるんだろう。

こんな俺になりたいとか、この人はどうかしてる。


たとえそれが俺を傷つけないための嘘だとしても………






「………最後にその言葉が聞けて嬉しかったです」


「え……………?」




俺は、ポケットに入れていたカッターを取り出した。

「隼先輩………その顔も声も優しさも…全部俺に下さい」





怯える隼先輩の喉元に、カッターを突き付けて俺はまた恍惚としてしまう気持ちを必死で抑えていた。
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