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5人目:平凡後輩の話

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隼先輩とあの話をしてからしばらく、俺は自分で自分のいいところを探すようになった。

もちろん、14年間モブの人生を歩んできた男に、すぐにいいところなんて見つからない。

けど、ほんと少しでもいいから自分で自分を褒めることを習慣づけた。

それだけじゃなくて周りの人にも目を向けるようにして、みんなのいいところや憧れるところを見つけて、素直に伝えるようにも努めた。

前までなら面倒くさがってた練習後の自主練にも参加し、ついみんなに任せていた雑用なども積極的にやるようにした。


俺はただ、隼先輩みたいになりたかったから。

少しでも近づくために、できることは何でもした。



「海吏、最近お前調子いいじゃん!」

「それ思ってた。自主練にも来るようになったし」

「前は俺らのこと褒めてくれたりしなかったのになwなんかすげー丸くなった?」

「最近はずっと明るくなったし元気だよな。先輩に怒られることも減ったんじゃね?」



こんな感じで、同じ年の2年生の部員たちからは、「海吏は良い方向に変わった」と言ってもらえることも増えてきた。


「ありがと!前までの俺が異常に無気力だっただけで、やっとお前らと同じ土俵に立てただけだよ!全然まだまだだw」


そんなことを言い照れ隠ししながらも、本音はとても嬉しかった。



「おい海吏、最近見違える程真面目になったではないか。心を入れ替えたのか?素晴らしいではないか。それでこそ本物の男だ」

普段あまり威圧的ではないしそこまで声を荒げたりはしないけど、たまに雷を落とすと怖い五郎ごろう先輩にそう言ってもらえた。


「なんだぁー?俺らのきょーいくがやっと届いたかっ!!遅えよ海吏~~w時差半端ねえな!」

先輩方といるときはいじられ役だけど、俺たち後輩の前ではすぐキレて叫んでることの多かった瑠千亜るちあ先輩も初めて優しく絡んでくれた。


「海吏、継続が大事だぞ。お前の今のそのモチベーション、ちゃんと維持できる明確な目標はあるのか?続かなければ逆戻りだぞ。」


正直一番厳しくて一番怖がられているゆう先輩まで、論理的なアドバイスをくれた。



俺は隼先輩のお陰で変われたんだ。


隼先輩だけでなく、周りのみんなもそれをわかってくれている。


ちょっとでも、隼先輩に近づけただろうか…

少なくとも、隼先輩とあの話をする前に比べたら、近づいたんじゃないだろうか。


そう思えることが、俺にとっては何よりもの継続のモチベーションだった。
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