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4人目:彼女の話

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「そっか。それにしても隼くんも大変だね。……大人の人に裏切られ続けて、大人なんて…もう信じられないんじゃない?」


隼くんの情報が入る度に私は胸が痛かった。

信じては裏切られ、頼っては下心を抱かれ…

心から寄り添ってくれる大人なんて、隼くんの周りにはいないんじゃないかと思っていた。


「確かに、突然変わってしまうのはすごく辛いですよ。だけど…騒がれているほど、全員が僕を裏切るわけではないです。長い間一緒にいても変わらず優しくしてくれる人もいるし、たまに厳しく叱ってくれる人もいます。そういう人たちがいる限り、僕は人を信じるのを辞めたくないんです」


そう語る隼くんの表情は柔らかかった。

だけど目の奥には強い信念が光っていた。

真っ直ぐに私の目を見るその瞳は、まるで私の曇った視界を突き破るように曲がらない光を放射してきた。


次の瞬間、隼くんは目を細めて斜め下を見る。

そのたった一瞬の目線の動きは、見ている側の息が止まるような滑らかさだった。

それが何を意味しているかとか、そんなことは考えても無駄だということは分かる。

だけど、何故か隼くんの目から目が離せない。

彼の含みを持つこの目の表情は……

何度裏切られても信じ続ける強い気持ちは…

一体どこから来ているのだろう。


何故こんなにも、隼くんは相手の頭の中を自分の事で一杯にしてしまうのだろう。


私は気がついたら、あの頃春馬を取った相手について知りたいと思っていたのとはまた別の意味で、隼くんに色んなことを聞いていた。

隼くんは全てに丁寧に答えてくれる。


少しだけと言いながら、気がついたら私と隼くんは30分近く立ちながら話し込んでいた。

私はあの頃分からなかった色んなことが、隼くんのおかげで少しずつ分かってきたことが嬉しかった。

春馬についても隼くんについても、そして自分についても色んなことを分かることができた。


私はこの時間があっただけで、わざわざ隼くんの合宿を追いかけて来た甲斐があったと思った。

これでスッキリ帰ることができる……


そう思っていたとき、私と隼くんのスマホが大音量で一斉に鳴り響いた。
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