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4人目:彼女の話

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「なに……?」


振り向いた途端、春馬はキッチンから包丁を取り出しているのが目に入った。


(……やばい!!殺される!)


私は急いでドアを開け、すぐに逃げようとした。


だけど手が震えていて、うまく鍵を回せない。

やっと鍵を開けた思ったら今度はキャリーケースのタイヤが私のロングスカートに引っかかり、すぐに外には出られない。


「……やめてっ!!!」


私に向かって包丁を振り上げる春馬に声を上げ、目を瞑った。

もう、逃げられないと思った。







だけど………



「……隼?………」





ほんの数cm開いたドアの向こうに、春馬が手を止め声を出す。




私は春馬の狂気的な気配が消えたのを察知し、目を開けて春馬の視線の先を見る。



そこには、玄関先に立っている隼くんの姿があった。



「隼……?なんでお前……」


春馬は私を押しのけてドアの外にいる隼くんのところに行こうとした。


だけどその右手には、まだ包丁が握られているのを見た。


「隼くん逃げて!!」


私は叫んで咄嗟に春馬を背中から抱きしめた。


「何すんだよお前っ!」

「隼くん早く逃げて!危ないよ!」


後ろから邪魔をする私に苛ついたように抵抗する春馬。

包丁を持つ右手が、私の腕に当たる。


「……っ!!!」


シュッ!という音がした途端、私の腕から血がバッと溢れ出した。


突然の痛みに顔をしかめたが、それでも私は春馬から体を話さなかった。

そのいざこざの間に、扉は閉まっていた。


「あ……っ…っ……助けて!助けてください!」


ドアの外にいる隼くんが隣の部屋のドアをドンドン叩いて叫ぶ声が聞こえる。


「なんだ!どうした!?」


「中で!人に包丁が……!」


すぐに出てきた隣人の男性が、混乱している隼くんの言葉を聞いてうちのドアを開けた。


「おい!何してる!!」


春馬は私に馬乗りになり、私の首元に包丁を突き付けていた。

それを見た男性が、一瞬のうちに春馬を力ずくで私から引き剥がした。


「何してるんだお前!」


その男性が春馬を抑えつけ、春馬の手から包丁を奪おうとする。


それでも春馬は何も言わずに包丁を握りしめ続ける。


私は咄嗟に春馬の手を踏みつけ、一瞬力が緩んだ隙に春馬の手から包丁を奪った。


「警察を呼べ!早く!!」

春馬を押さえつけてる男性が私に向かってそう叫んだ。

春馬は何も言わずに抵抗してるが、その男性はかなり大柄で、春馬の抵抗にもビクともしない。


私は包丁を持ったままそこに落ちてた春馬のスマホで警察に連絡した。


玄関の外には既に複数の人が集まってる声がした。


隼くんは、その大人たちと一緒にいるから大丈夫かな……





そうしているうちに、すぐに警察が来た。


玄関の前の野次馬の中に隼くんがいた。


彼や隣人は警察から話を聞かれていた。

警察が到着した瞬間も暴れていた春馬は、
別の警察官に取り押さえられて連れて行かれた。


そして私は、腕の手当てをするために病院へ運ばれた。









こうして私と春馬の、長い長い1日が過ぎた。
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