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3人目:爽やか熱血顧問の話

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「隼、ちょっと来てくれ」


俺は隼の手を引き、テニスコートを後にした。

隼はえっ、と驚きながらも俺の手の引く方へと付いてきてくれた。


テニスコートから歩いて2分ほどの場所にある職員駐車場。

俺の車はいつも一番奥に停めてある。


俺は鍵を開けて、隼を助手席に座らせた。

俺は反対側から運転席に座り、そのまま車を発進させ走らせた。


「え?先生?どこに行くんですか……?」

戸惑う隼を横目に、俺はひたすら学校から離れた場所へと向かった。

何も話さないで無表情のまま運転する俺に隼は怯えた目を向けていた。


「先生……俺、荷物とか全部まだ学校にあります……」

隼はそれでも、俺に何度か話しかけてきて、俺の目的を探ろうとしていた。

俺はそれすらも無視して、隣に感じる隼の気配を存分に堪能しながら目的地へと車を走らせた。






「隼、ここが俺の住んでる家だ」


車で約15分。

俺は自分が住んでるアパートの前に車を停めて、窓から見える自分の部屋を指差した。


「いいか?このアパートのあの部屋だ。あそこに俺はいる。だから、もし辛くなったらいつでも直接会いに来い。」


助手席の隼に若干覆い被さるようにして助手席側の窓の先を見せる。

俺の顔は隼の耳元に来ていた。


「先生…でも、彼女さんと住んでるんじゃ…?」


隼はゆっくりと俺の方へと顔を向け、遠慮がちに聞いてきた。


「大丈夫。もうそいつはこの家には入れないから。ここに入っていいのは、俺とお前だけだよ隼」


俺は本気だ。


もう、ここにあの彼女は入れない。


ここは、俺と隼だけの場所。

他には誰も入れるつもりはない。


「そんな……じゃあ彼女さんは…」

「別れるよ。結婚もしない。」

「ええ…!?」

「もう好きじゃないんだ。っていうか、俺が生きる意味は、あいつじゃないってことに気づいたから…」


そう言ってまだ戸惑いを隠せていない隼の目を見つめる。



俺の生きる意味は………



「隼、もうあんな女のことなんて気にしないでいつでも俺に頼るんだぞ」



隼の目の奥深くで微かに揺れる炎は、俺の言葉に更に大きく揺らいでいる。

黒目がちなその瞳に映る俺の顔は、正義のヒーローそのものだ。

自分の全てを捨てて、一人のために生きる。



そんな昔から憧れていた生き方を、俺は今やっとできるような気がしていた。
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