上 下
14 / 213
3人目:爽やか熱血顧問の話

3

しおりを挟む
「……先生……あの……」


数分くらい沈黙のまま探し物をしていた隼が、急に手を止めて俺の方へ振り向いた。


「どうした?見つかりそうか?」

「いえ……まだなんですけど……その、俺とここにいても大丈夫なんですか…?」

「ん?どういうこと?」


言い淀む隼の表情は、少し不安なような寂しいようなものだった。

俺は隼の言葉の意図が分からず、呑気な返事をした。

俺の勤務時間のこととかを気にしてくれてるのだろうか……

妙に大人びた気遣いをするこいつなら、あり得るかもな……


「気にすんなよ隼。俺らって、土日4時間以上働けば何時間働いても給料は同じなんだよwだからどーせ部活がある時点で何時間やろうが一緒w」

俺は隼を安心させるために、努めて明るくそう言った。

本当は生徒に残業代の話とかはしない方が良いのだろうが…


「そうなんですね……それは大変ですね…」

「こういう話じゃないのか?…なんだ、俺口滑らせて生徒に言っちゃいけんこと話しただけじゃんw」

「……今の話は聞かなかったことにするので安心してください」

「助かるぅー。てか、そういうことじゃないなら何だよ?」

「え?あ、あの…」


隼はそう言ったきり口を開かない。

俺に対して、察してほしいような目を向けてくる。







「……先生たちって、俺と二人きりになったらダメなんですよね…?」




意を決したように言う隼の言葉を、俺は一瞬理解することができなかった。



「ん?……あれ?お前それ誰かに言われた?」

「いや……まあ、聞いた感じです」

「え?まじで?……いやいやいや…」


俺は、まさか隼の口からその話が出てくるとは思ってもいなかったので、頭が状況に追いついていない。


あの会議の決定事項は、職員室からは一歩も出てはいけないはずだ。

だからもちろん、生徒は当事者含め誰一人として知らないはずの情報なのだ。


それなのに隼は今、自分と先生が二人きりになってはいけないルールを自分の口から言っていた。


それはつまり………


「隼、それ先生から聞いたってことだよな?」


俺は驚きを隠せないまま、完全に手を止め俺の方を向く隼に確かめた。


「………はい…………」


そう頷く隼の声は、聞いたこともないくらい消え入りそうな弱さだった。


俺は焦りなのか驚きなのかよく分からない感情で心臓がバクバクしていた。


なぜ、本人にそれが伝わっているんだ…


俺がどこかで漏らしたか?


……いや、そんな話はいまいままで忘れてしまっていたくらいだから言うはずはない。


あのプリントだって、確認したらすぐにシュレッダーにかけることになっていたはずだ。


だとしたらなんで……



「………先生たちは、俺と二人になると……身を滅ぼすって言われてるんですよね…?俺、佐伯先生にはそうなってほしくないです…」



驚きのあまり何も言えない俺を真っ直ぐ見つめて隼が訴えてくる。


だけどその瞳が、あまりにも悲しそうな色をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

イケメンにフラれた部下の女の子を堪能する上司の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。 一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。 二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。 【共通】 *中世欧州風ファンタジー。 *立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。 *女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。 *一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。 *ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。 ※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

処理中です...