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3人目:爽やか熱血顧問の話

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「佐伯センセーって、結婚してるのー?」

「先生!うちが高校卒業するまで独身でいてね!」

「佐伯先生みたいなイケメンな先生、いると思わなかった!」



俺は常々、女子生徒を中心にこういう声をかけてもらえることが多い。

この学校の先生方の平均年齢は高く、その中で30になったばかりの俺はまだまだ若い方だ。

それもあるのだろうが、年頃の女子たちからそう言われる事自体は正直満更でもない。

しかし俺は、爽やかで熱血な体育教師として通っている。

言い寄ってくる女子生徒に邪な感情を抱いたことなど勿論無く、日々のクラス指導や部活の指導に熱を込めて忙しい毎日を送る日々だった。





春休み真っ只中の日曜日。

今日もうちの部は午前中に練習があった。

この学校では毎年春休みに大型遠征を行うことになっている。

部員の中から選ばれた18名のみ行くことのできるこの遠征は、全部員の目標の1つとなっている。


明日一日オフを挟んで明後日から出発するのだが、遠征組には練習後に少し残ってもらって準備をさせた。

準備といってもボール、篭、テント、ベンチ、簡易ネットやその他諸々、最低限の必要なものを学校のバスに乗せてしまうだけだ。

そう時間もかからずに終わり、遠征組も皆まちまちに帰ったと思っていた。



(部室の忘れ物は、大丈夫そうだな……)


最後に俺が部室を確認し、特に何もなさそうなので鍵をかけ、外に出ようとした。


するとその時



「あれ?先生!」


目の前に、とっくに帰ったと思っていた隼が立っていた。


「隼?お前帰ってなかったのか?」

「はい……あの、実は大事なハンカチを失くしてしまって……。部室に心当たりがあったので、途中で引き返して探しに来たんです。正直、もう先生も帰っちゃったと思ってたのでよかったです…」

申し訳なさそうにそう言う隼は、俺がまだ部室の鍵を締めていないことに安心している様子だった。

「それはつまり、お前のハンカチが見つかるまで俺にここにいろってことだな?」

「はい……すみません……大丈夫ですか…?」

「全然いーけどよ。その代わり30秒だけだ。ほら、いーち、にーい、さーん……」

「え?!えっ!ちょっ!まってくださいっ」


俺がふざけて数え始めると隼は焦ったように部室へ駆け込み中を探した。


「冗談だよ。ゆっくり探せ」

俺は後ろから隼を追い、部室へ入る。

「ありがとうございます!」

「ハンカチってのは、いつもお前が大会や遠征の時に持ってきてるやつだよな?……相当大事なものなんだろ?わざわざ引き返して探しに来るってことは」

「そうですね……とても大事なものです」


俺に背を向けて一生懸命目当てのものを探っていた手は、俺の質問にそう答えたときに一瞬だけ止まっていた。

俺はその時の隼の声と雰囲気が、妙に寂しそうに感じた。


こいつは普段人には見せないだけで、かなりの傷と闇を背負っているのだろう…

時々、そう思わせる節があった。

今の隼の姿は、正にそんな感じだ。


俺は特に何も言えず、隼が物を探しているのをただ座って見ていた。
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