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2人目:偏屈教師の話

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「隼、ありがとな………」



あれから30分前後。

隼は、俺にされるがままだった。

俺は隼への止められない気持ちを、まるで獣のように全身でぶつけた。

俺はこんな性格だから、これまで女を知ったことすらない。

人生で初めて互いの温もりを交換し合う相手が、隼になるとはつい昨日まで思いもしなかった。


だけど隼はそんな俺とは真逆に、既に何人もの温もりを知っていた。

それは隼の出す声、体の奥の反応、そして行為が進むに連れて俺に向けてくる情欲的な目が物語っていた。

自分の息子のような年齢の子の方が俺よりも経験を重ねているという事実に、俺は情けない嫉妬もしていた。

それもあって、余計に隼を乱暴に犯したのだった。



隼が純粋に信じ、慕った俺は、それとは真逆の形で隼に気持ちを返した。

俺が抱いていた、隼への歪な執着心。

厳しくして、他の先生とは違う存在になりたかった。

だけど違う存在になれたとして、隼の中で一番にはなれる訳がなかった。

俺には無いものを沢山持っていて、羨ましかった。

みんなが避ける中、俺にも笑って話しかける隼が、愛おしくて憎かった。


こんな俺にも無償の優しさを注いでくれたことが、そういう気持ちを余計に大きくさせた。

俺の惨めさを、小ささを、醜さを……


マジマジと見せつけてきたこいつへの歪な感情は、こうした行動へと現れただけ。


こいつが自分で招いたこと。


他人の孤独感や劣等感を刺激して、それらを爆発させるようなことをしたのはこいつだ。


無意識のうちに求めているのが隼へ向けてしまう憎しみと嫌悪の目。

隼は壁に頭をつけて、こちらに背中を向け泣いている。


そんな隼を、俺は汚い目の色で睨んでいた。


隼は今、何を思って泣いているのだろう。

俺を憐れむ気持ちは、まだ残っているのだろうか。

それとも自分を憐れんでいるのだろうか。

もしくは自分が信じた世の中と、世の中が自分に向けてくる現実が違いすぎることに悲しんでいるのだろうか。


こいつがいくら相手を純粋に信じて愛して頼っても、相手はそうではない。

そんな誰にも理解されない孤独に気づいて泣いているのだろうか……


隼の中で、俺はもうクズな大人に成り下がった。

数分前までの純粋無垢な目を向けてもらえることは二度とないのだ……。






泣いてる隼をぼーっと眺め、俺は自分と隼について考える。


だけど隼の頭上にあるものが俺の目に写りこんだ時、俺は本当の意味で自分を憐れんだ。






この部屋に監視カメラがあったことを、俺は完全に失念していたのだった。
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