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2人目:偏屈教師の話
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いままでこんな生徒はいただろうか。
教員生活25年、みんなが右を向けば左を向き、左を向けば右を見る。
俺は敢えて、そういう行動を取ってきた。
しかしそれは、ただの天邪鬼によるものではなく、一人くらいは視点が違う存在が必要だと思っていたからだ。
ただその気持ちは周囲には理解されず、俺はただの偏屈嫌われ者教師としてやってきたのだった。
だからこうして俺の考えや行動を理解し、認め、受け入れてくれた生徒など、いるはずがなかったのだ。
「お前……それ、誰が担任になっても言うんじゃないのか」
初めてそんなことを言われた俺は、素直に喜べずに咄嗟に捻くれたことを言う。
「え…と……んー…それはどうなんでしょう…もちろんそれぞれの先生に良いところはありますからね。……だけど、奥山先生にも間違いななくいいところは沢山あります。僕だけじゃなくて、他のクラスメイトもそれはわかってると思いますよ」
俺の質問に咄嗟に「あなただけです」というような媚びた答えをせず、正直に現実的なことを言ってくれる。
それでいて他の生徒も俺を理解していると思うなどという、つい信じてみたいと思ってしまうような嬉しい言葉をくれる。
俺が長年見てみぬふりをしてきた自分のプライドと心の鉛を、どんどん暖かく溶かしていく。
俺があんなに羨み妬んで醜く嫉妬していた相手は、俺が思うよりもずっとずっと魅力があった。
その魅力を今、悔しいけど認めなければいけない。
他の先生たちのように洗脳され上手く手の平で転がされたくないと思っていたが、もうそんなことはどうでもいい。
こいつが意識的に洗脳しているのかそれともほんとに思ってくれているのかなんて、もう考える余地もない。
まるで薬物のようなその蕩ける言葉を、もっともっとと欲しがる自分が抑えられなかった。
「こんなことを言ってくれるのはお前だけだよ醍醐。ありがとう」
俺の言葉を素直に受け取ったのだろう。
醍醐はそれを聞きニッコリと優しく笑った。
俺はその笑顔すらも、自分だけに向けてくれればいいと思っていた。
他の先生、生徒、誰にも向けてほしくない。
俺にとっての理解者がこいつだけだったように、こいつにとって理解すべきなのは俺だけでいい。
そんな俺の暴走した気持ちを、こいつはどう受け止めるだろうか。
どこまで受け入れ笑ってくれるのだろうか。
気づけば俺は醍醐の後ろに回り込み、座る背後から醍醐を抱きしめていた。
教員生活25年、みんなが右を向けば左を向き、左を向けば右を見る。
俺は敢えて、そういう行動を取ってきた。
しかしそれは、ただの天邪鬼によるものではなく、一人くらいは視点が違う存在が必要だと思っていたからだ。
ただその気持ちは周囲には理解されず、俺はただの偏屈嫌われ者教師としてやってきたのだった。
だからこうして俺の考えや行動を理解し、認め、受け入れてくれた生徒など、いるはずがなかったのだ。
「お前……それ、誰が担任になっても言うんじゃないのか」
初めてそんなことを言われた俺は、素直に喜べずに咄嗟に捻くれたことを言う。
「え…と……んー…それはどうなんでしょう…もちろんそれぞれの先生に良いところはありますからね。……だけど、奥山先生にも間違いななくいいところは沢山あります。僕だけじゃなくて、他のクラスメイトもそれはわかってると思いますよ」
俺の質問に咄嗟に「あなただけです」というような媚びた答えをせず、正直に現実的なことを言ってくれる。
それでいて他の生徒も俺を理解していると思うなどという、つい信じてみたいと思ってしまうような嬉しい言葉をくれる。
俺が長年見てみぬふりをしてきた自分のプライドと心の鉛を、どんどん暖かく溶かしていく。
俺があんなに羨み妬んで醜く嫉妬していた相手は、俺が思うよりもずっとずっと魅力があった。
その魅力を今、悔しいけど認めなければいけない。
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こいつが意識的に洗脳しているのかそれともほんとに思ってくれているのかなんて、もう考える余地もない。
まるで薬物のようなその蕩ける言葉を、もっともっとと欲しがる自分が抑えられなかった。
「こんなことを言ってくれるのはお前だけだよ醍醐。ありがとう」
俺の言葉を素直に受け取ったのだろう。
醍醐はそれを聞きニッコリと優しく笑った。
俺はその笑顔すらも、自分だけに向けてくれればいいと思っていた。
他の先生、生徒、誰にも向けてほしくない。
俺にとっての理解者がこいつだけだったように、こいつにとって理解すべきなのは俺だけでいい。
そんな俺の暴走した気持ちを、こいつはどう受け止めるだろうか。
どこまで受け入れ笑ってくれるのだろうか。
気づけば俺は醍醐の後ろに回り込み、座る背後から醍醐を抱きしめていた。
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