上 下
5 / 213
2人目:偏屈教師の話

1

しおりを挟む
「お前……調子に乗るのも大概にしろよ!!」

バンっ!と机を叩く音が職員室に鳴り響く。

すると目の前の生徒は、驚いたようにビクっと身体を動かす。

「なあ……お前さ、去年の入学の時からずっと成績トップで部活でもエース扱いされて。クラスの女子からもチヤホヤされたりして調子に乗ってるよなあ!?だからこんなことが起こるんだよ!」

俺の名前は奥山博おくやまひろし

私立旭堂中学校の数学教師だ。

今目の前で俺に怒られている俺の担任するクラスの男子生徒は、大事な期末試験の朝、無連絡で遅刻をしてきた。

通常、何らかの事情で定期考査を受けられなかった場合はその事情や理由を説明し、クラス担任やその科目の教科担任、学年主任に教務主任、教頭まで追試験の許可を取りに行かなければならない。

だがこの生徒は、その事情をなかなか明確に説明しようとしないせいで、俺はこいつの追考査の許可を取れずにいるのだ。

2時間目の終わりの時間に登校してきたかと思えば、遅れてきた理由も携帯に電話をかけても出なかった理由もハッキリと言わないのだ。

何か事情があったのは仕方ないが、せめてもう少し早めに連絡はできたはずだ。

「なあお前……自分は特別な生徒だから、多少のワガママは許されると思ってたんじゃねーの?ああ?違うか?」

「ち…ちがいます……許されるなんて、思ってません……」

「じゃあなんで堂々と追試を受けたいだなんて申し出て来られるんだっ!!」


再び俺の逆鱗に触れ、机を叩かれる生徒。

「まあまあ奥山先生、お気持ちは分かりますが、今の時代あまりそう怒鳴ったりすると良くないですよ。他の先生方の勤務にも支障が出ますので、そろそろ……」


隣の学年主任が俺を宥めに入る。

「………ったく。とりあえず今すぐに許可は出せない。今日一日、反省の態度を示せ。そんで放課後もう一度俺のところへ来い。今日のお前の態度を見て許可を出すかどうか決める」

「わかりました。……ありがとうございます」


俺の言葉に生徒は頷き、礼を言って退室した。


「奥山先生、醍醐だいごくんに厳しいですよね~」

学年主任とは反対方向の隣の席にいる先生が声をかけてくる。

「まあ、ああいうチヤホヤされてる奴はどうも自分の思い通りに世界が動くと思ってる節がありますから。中高生の段階で勘違いさせないようにするのも我々の役目かと。」

「んー、確かにそういう奴もいますけど、醍醐くんは比較的しっかりしてると思いますよ?むしろ自分を過小評価してると言いますか…」

「大人の前では上手く取り繕えるんですよ、ああいうタイプは。けどそこを見抜いてやらないと、ヤツのためにはなりませんて」


この学校の誰もが、あの生徒に騙されている。

そもそもあいつは入学前、過去最高の入試の点数を叩き出し、面接においても全面接官がA評価を下すという前代未聞の成績を残し、話題になった生徒だ。

しかし入試会議の際、小学校からの申し送りで5.6年生の欠席日数が年間の3分の1を超えていたことがわかった。

それが議論となり、休みがちな生徒をうちで面倒見るか、それとも文武両道に厳しいうちの学校ではやっていけないことを見越して落とすかで意見が割れた。

結果として、休んでいた理由が酷いイジメによるものらしいという情報を元に、イジメにさえなければきちんと出席できるだろうという期待を込めて合格させることにした。

しかしそういう経路もあってか、先生方は皆あの生徒に甘すぎる節がある。

確かに過去のいじめは同情する点も多い。

入学後の成績もトップを維持しているのは努力しているからだとも思う。

しかし、だからといってあからさまに贔屓をするのはまた別問題だ。


俺はヤツの担任であるが故に、奴が勘違いして将来とんでもない野郎にならない為に厳しく接することを貫いている。

だから今回のような定期考査の無断欠席も、そう簡単には許したくなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

イケメンにフラれた部下の女の子を堪能する上司の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。 一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。 二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。 【共通】 *中世欧州風ファンタジー。 *立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。 *女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。 *一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。 *ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。 ※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

処理中です...