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「え……?」
「隼くんへの申し訳無さと自分に対する後悔の気持ち……その2つが、渚ちゃんの行動を邪魔したのよ。」
菜摘さんのあまりに抽象的な言葉に、僕は無意識のうちに彼女の唇を見ていた。
その唇の動きを見たとしても、彼女の言わんとしていることが分かる訳でもないというのに。
「私も何度か渚ちゃんとお話したことがあるけど、あの子はきっと賢い子よ。大人しいけどしっかりしてるし、人の気持ちにも敏感だろうし、自分の行いに対する反省もしっかりできる。…だからこそ、自分が隼くんに酷いことを言ってしまって隼くんを傷つけたこととか、結果的にそんな隼くんに助けられたのにすぐにお礼を言えなかったこととかを後悔してたんだわ。時間が経てば経つほど後悔は大きくなるし、そうすれば余計に隼くんへの謝罪と感謝を言いにくくなる。それでずっと、苦しんでいたのかもしれない…。」
菜摘さんはどこか自分にも思い当たる節があるような表情をしながら、真っ直ぐに僕の目を見て言った。
菜摘さんが渚さんのことを言ったように、菜摘さんも人の気持ちに敏感で、とても繊細な心の持ち主だ。
だからこそ、渚さんの気持ちも手に取るように分かったのかもしれない……。
「渚さんに、もう自分のことを責めて欲しくないな…。僕は渚さんから傷つけられたとは思ってないし、あの日殴られたのも渚さんのらせいだなんて1ミリも思ってない。僕に1年間何も言えなかったことも、本当に気にしていないし。」
だけどそれを分かってもらうのは、とても難しいのかもしれない……
そう言葉を繋ごうとした時、不意に菜摘さんの両手が僕の頬を優しく包んだ。
「隼くん……それをね、きちんと渚ちゃんに伝えてあげて。私は自分で渚ちゃんと似てるところがあると思ってるからこそ、渚ちゃんの痛みを凄く想像できるの。その痛みを無くせるのは…隼くん本人が、渚ちゃんを許すことでしか無理なのよ。」
両頬から伝わってくる菜摘さんの優しい体温に、僕も思わず自分の手を重ねた。
僕が菜摘さんに言ってほしかった言葉を貰えたことが嬉しかったからかもしれない。
そして菜摘さんの壊れそうな優しさを、彼女の手の温度と言葉で感じたからかもしれない。
「うん………ありがとう菜摘さん。やっぱり、僕が自分で渚さんにハンカチのお礼を言うよ。そしてその時に、ちゃんと自分の気持ちも伝えるね。」
僕が菜摘さんに感謝をしたのは、きっと僕も無意識のうちに、渚さんと正面から話すのを避けていたから。
そんな僕の背中を押してくれたからだ。
菜摘さんは僕の言葉を聞いて小さく頷いた後に、ギュッと僕を抱きしめてくれた。
「隼くんへの申し訳無さと自分に対する後悔の気持ち……その2つが、渚ちゃんの行動を邪魔したのよ。」
菜摘さんのあまりに抽象的な言葉に、僕は無意識のうちに彼女の唇を見ていた。
その唇の動きを見たとしても、彼女の言わんとしていることが分かる訳でもないというのに。
「私も何度か渚ちゃんとお話したことがあるけど、あの子はきっと賢い子よ。大人しいけどしっかりしてるし、人の気持ちにも敏感だろうし、自分の行いに対する反省もしっかりできる。…だからこそ、自分が隼くんに酷いことを言ってしまって隼くんを傷つけたこととか、結果的にそんな隼くんに助けられたのにすぐにお礼を言えなかったこととかを後悔してたんだわ。時間が経てば経つほど後悔は大きくなるし、そうすれば余計に隼くんへの謝罪と感謝を言いにくくなる。それでずっと、苦しんでいたのかもしれない…。」
菜摘さんはどこか自分にも思い当たる節があるような表情をしながら、真っ直ぐに僕の目を見て言った。
菜摘さんが渚さんのことを言ったように、菜摘さんも人の気持ちに敏感で、とても繊細な心の持ち主だ。
だからこそ、渚さんの気持ちも手に取るように分かったのかもしれない……。
「渚さんに、もう自分のことを責めて欲しくないな…。僕は渚さんから傷つけられたとは思ってないし、あの日殴られたのも渚さんのらせいだなんて1ミリも思ってない。僕に1年間何も言えなかったことも、本当に気にしていないし。」
だけどそれを分かってもらうのは、とても難しいのかもしれない……
そう言葉を繋ごうとした時、不意に菜摘さんの両手が僕の頬を優しく包んだ。
「隼くん……それをね、きちんと渚ちゃんに伝えてあげて。私は自分で渚ちゃんと似てるところがあると思ってるからこそ、渚ちゃんの痛みを凄く想像できるの。その痛みを無くせるのは…隼くん本人が、渚ちゃんを許すことでしか無理なのよ。」
両頬から伝わってくる菜摘さんの優しい体温に、僕も思わず自分の手を重ねた。
僕が菜摘さんに言ってほしかった言葉を貰えたことが嬉しかったからかもしれない。
そして菜摘さんの壊れそうな優しさを、彼女の手の温度と言葉で感じたからかもしれない。
「うん………ありがとう菜摘さん。やっぱり、僕が自分で渚さんにハンカチのお礼を言うよ。そしてその時に、ちゃんと自分の気持ちも伝えるね。」
僕が菜摘さんに感謝をしたのは、きっと僕も無意識のうちに、渚さんと正面から話すのを避けていたから。
そんな僕の背中を押してくれたからだ。
菜摘さんは僕の言葉を聞いて小さく頷いた後に、ギュッと僕を抱きしめてくれた。
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