上 下
197 / 217
22頁

5

しおりを挟む
「おい!隼じゃん~お前なにしてんの?」

突然後ろから声がした。

振り返ると、そこには田中くんが立っていた。

「田中くん……」

僕と渚さんの声が重なった。


「え?もしかして隼が渚のことナンパしてんの?きっしょいわぁ…」

「違うよ……」

「でも渚泣きそうじゃん。隼がしつこくしたんじゃねーの?」

「これは…その…」

「おい渚!こいつにはハッキリ嫌って言わねーと、昭恵みたいになるぞ。女子にしつこくしてるからこいつ嫌われてんじゃん。」


僕と渚さんの様子を交互に見ながら、田中くんはまくし立てるようにして言い切る。

そんなはっきりとした態度のせいで、渚さんも頷きながら田中くんの言うことを信じているような顔をしている。

昭恵さんの事件に関しては、事あるごとにこうして引き合いに出されている。

その度に僕は否定しているが、今回も否定したところで、余計に僕が渚さんをしつこく連れたそうとしたという話にされてしまいそうな雰囲気を感じた。

「……じゃあ、田中くんは渚さんと一緒に帰ってあげて。僕は渚さんが持ってる荷物を学校に運ぶから。」

微妙な空気を打ち破るように、僕は渚さんの手からぶら下げられていた買い物袋を受け取った。

「僕は学校に用事があったんだ。だから学校に向かってたんだよ。そしたらその途中で渚さんに会って…帰る頃には暗くなってるし最近不審者も多いし、心配だったから一緒に帰ろうと思ってたけど…田中くんが来てくれたなら安心だね。僕はこれを持って学校に行くから…渚さんと一緒に帰ってあげてね。」

誤解を解きたいという気持ちと、少しでも早くこの場から離れたいという気持ちから、僕は早口で二人にそう言った。

「…きっしょ…なにイキってんだよ。」

僕の言葉を聞いた田中くんは、蔑むような目を向けてきた。

「お前に言われなくても渚と帰るっつーの!お前より俺の方が絶対役に立つしな!」

「うん。渚さん、田中くんの方が僕と帰るよりも安心だよね?」

「う、うん……」

「あたりめーだろボケ。ほら、行くぞ渚。こいつと話してるとキモさがうつる。」


吐き捨てるように言た田中くんは、渚さんの手を引いて僕と反対方向へと向かった。

渚さんは何か言いたげにこちらを見ていたけど、田中くんの目を気にしたのか、すぐに僕から目を逸らしてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ONE

四百珊瑚
ファンタジー
一度は自ら命を絶った少年が、再び手にした命を懸けて戦い続ける再生の物語。 命とは何か、なぜ私たちは産まれ、生きていくのか…

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

【完結】愛犬との散歩は、恋の予感

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』
青春
愛犬を通じて好きな人と交流をしていくお話です。 中学三年生の大事な受験の時期に初恋を知って、お互いに勉強を励まし合いながら、恋をしていくお話です。 胸きゅんする……かな? 中高生向けの為、難しいお話ではなく、初々しい感じを目指してみました♪ _________________ 「私、親が二人とも身長高いんだよね。だから、もしかしたら・・・身長超しちゃうかも」 「はっ、俺だって成長期だっての。自分だけ伸びると思ってんじゃねーよ」 _________________ 一章 初恋 二章 嫉妬 三章 逢瀬 四章 結実 _________________ ファンタジーしか書いて来なかったので、このジャンルは中々書くのが難しかったですが、少女漫画をイメージしてみました♪ 楽しんでいただけると嬉しいです♪ ※完結まで執筆済み(予約投稿) ※10万文字以上を長編と思っているので、この作品は短編扱いにしています。 ※長くなりそうだったので、ちょいちょいエピソードを割愛しています。

僕は魔法が使えない

くさの
青春
学校一、浮いている彼は 嘘をついている風でもなく こういうのだ。 「僕が使えるのは、 魔法ではなく魔術です」 私もたいがい浮いてますが なんていうか、その… 『頭、大丈夫?』 なるべく関わらずに 過ごそうと思っていた矢先。 何の因果か隣の席になった 私と彼。 んー。 穏やかに日々が過ぎますように。 ――――――― カクヨム、ノベマ!でも掲載しています。

青春リフレクション

羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。 命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。 そんなある日、一人の少女に出会う。 彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。 でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!? 胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!

え?俺って思ってたよりも愛されてた感じ?

パワフル6世
BL
「え?俺って思ってたより愛されてた感じ?」 「そうだねぇ。ちょっと逃げるのが遅かったね、ひなちゃん。」 カワイイ系隠れヤンデレ攻め(遥斗)VS平凡な俺(雛汰)の放課後攻防戦 初めてお話書きます。拙いですが、ご容赦ください。愛はたっぷり込めました! その後のお話もあるので良ければ

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

戒めの銀時計

ふじゆう
青春
―――俺は、嘘をついた。亡くなった祖父が大切にしていた銀時計を眺める。大切に持っている理由は、亡くなった祖父の形見だから。と、いう理由だけではない。ある日、大切にしていた銀時計が、何者かに盗まれた。 嘘をついていた事に対して、懺悔をしていた青年が、銀時計を失った事で、胸の奥に隠していた想いを告白する。男子高校生の葛藤を描いたショートストーリー。

処理中です...