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「ここ……本当に人が来ないんだよね……?」


周りをキョロキョロと見渡しながらそう尋ねる僕。

「大丈夫よ。……誰も来ないわ…」

菜摘さんは、僕に向かって絡みつくような視線を投げながら、ふふ、っと色っぽく微笑んだ。

きっと彼女は、僕が少しずつ彼女の提案に興味を持ち始めていることに気がついている。

だけど敢えてそこには触れずに、僕の方から彼女の誘いに乗ってくることを待っている。


「あの、菜摘さん…」
 
ん?と言いながら、菜摘さんは僕に体を密着させる。
 
彼女の息づかい、匂い、鼓動が間近で感じられることに、僕の頭は沸騰した薬缶のように上せてきそうになっていた。
 
「その…菜摘さんは本当に大丈夫なの?」
 
「何が?」
 
「ほら…体中に砂がついちゃうし、汗だってベトベトになるし…」
 
「そんなことは分かりきってるわよ。…隼くんはそれが気になってるの?」
 
「あ、いや…そうじゃないんだけどさ…」
 
彼女の僕に向ける目線は、妙に妖艶で魅惑的で、僕の脳に絡みついて離れない。
 
そしてどこか、本当は菜摘さんの誘いに乗りたい気分になっているのにも関わらず、未だにつべこべ言う僕への微かな苛立ちをも、その瞳の奥に見て取ることができた。
 
彼女の物言わぬ批判を浴びながら、僕は自分でも不思議に思った。
 
…なぜ、自分がなかなか菜摘さんの誘いに素直に乗らないのか…
 
目の前にいる彼女は、水着姿になったその瞬間から、僕を情欲的に魅惑する以外の何者でもなかった。
 
海の中でビーチバレーをしてはしゃいでいるときも、日陰に行こうと手を引かれて歩いているときも、そんな僕らを…いや、菜摘さんの艶めかしい歩き姿を遠巻きに眺めている男性たちに気づいたときも、ずっと彼女は僕の頭の中に広がっては必死に消さざるを得ない悶々とした気を起こさせていたのである。
 
そして、日陰のあるこの大きな岩に寄りかかって僕が差し出した水を飲んでいる時から…
 
僕の中の本能的な欲は、もう誤魔化しきれないほど大きくなっていたのであった。
 
「んっ……!」
 
不意に、菜摘さんが僕を抱き寄せてその唇を奪った。
 
突然放り込まれる彼女の熱い吐息に、僕は一瞬固まってしまった。
 
だけどその直後には、その熱で僕の体が溶けていくように、フッと全身の力が抜けた。
 
そして全ての血管を通して体中に広がっていくように、一気に僕の体温は上昇した。
 
「…な、菜摘さん…」
 
「…もう…隼くんったらじれったいんだもの。」
 
喘ぐような驚くような僕の声と目の色に、菜摘さんの甘い針のような言葉が刺さる。
 
容赦なく突き刺さったその言葉と彼女の雰囲気と行動は、最早僕の僅かに残っていた理性の糸を、いとも簡単に切ってしまったのであった。
 
 
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