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「ねえ隼くん。ちょっとあっちの方に行ってみない?人が少ないところで休みたいわ。」


30分ほど海で遊んでいた僕と菜摘さんは、少し休憩を挟もうと海から出て砂浜を歩いていた。

「わかった。あそこなら日陰も多そうだしね。」

「うん、ありがとう隼くん。」


照りつける暑さと日焼けのせいか、菜摘さんの顔がいつもより赤かった。

僕たちは手を繋いで砂浜の奥の方に向かった。

その間、菜摘さんの露わになった綺麗に伸びる脚や、歩くたびに揺れる胸を見ている男性の視線が気になった。

だけど菜摘さん本人は、そんなことを気にする様子もなく真っ直ぐに前を見て歩いていた。



「あ~……やっぱり日陰はいいわね。直射日光に当たらないっていうだけでも全然違うわ。」

大きな岩は僕たちを挟んで、海の方から差してくる日光を遮断してくれる。

菜摘さんは安心したように岩陰に座り込んだ。

「飲み物も持ってきておいてよかった。…ほら、凍らせておいたからまだ少し冷たいよ。」

「ありがとう隼くん。このお水、隼くんのでしょ?私が飲んでいいの?」

「いいよ。僕より菜摘さんのほうが脱水が心配だもん。」

「そう…ありがとね。隼くんの分も残しておくわ。」


そう言って菜摘さんは僕からペットボトルを受け取り、少し乾いたように見える唇に優しく押し付けた。

一口水を飲む度に動く喉が、張り付いた汗と一緒になって僕の目を釘付けにした。

汗にまみれた水着姿の菜摘さんは、水を飲むという行為だけでもとても魅力的に僕の視線を誘う。

少し気だるげな表情をした顔に髪から滴り落ちていく汗が、まるで彼女の中から溢れ出た甘い蜜のように官能的に彼女の首筋を伝う。

小さく息を乱し岩にもたれ掛かって座る彼女は、息をする度にその美しくて大きな胸をも震わせているということになど気づいていない。

僕は彼女の姿に見惚れながらも、これ以上見ていては危ない気がして、視線を彼女から頭上に広がる真っ青な空に移しながら、彼女の隣に座った。

「……隼くん、やっぱり若いわね。久々のビーチバレーだったのもあって、私もうクタクタよ…。」

「海の中でやると浮力の関係で余計に疲れるからね。だけど菜摘さん、上手だったよ。」

「まあ一応、昔バレーボールはやってたからね。それでもやっぱり、体力の衰えを感じたわ~…。まぁ、しばらく家にいたんだから当たり前ではあるんだけどね。こんなんじゃ、復職も少し不安になってきたわ。」

「……じゃあ、今度から一緒に運動する?小学校の近くの公園から少し行ったところに、ちょっとした運動公園みたいなところがあるんだ。朝から夜まで、結構いろんな人がランニングをしたり歩いたりしてるよ。」

「そうね……体力づくりにいいかもしれないわ。それに一人じゃどうしても怠けちゃいそうだけど、隼くんと一緒なら頑張れる気がするし。運動神経抜群な隼くんにコーチをやってもらって、少しずつ運動に体を慣らしていきたいわ。」

「うんっ!僕も、菜摘さんとなら楽しく運動ができそうだよ。それに、最近はテニスも2週間に1回しか行ってないし勉強ばかりで運動をする機会が減ってたからね。僕も頑張って菜摘さんのコーチを務めるよ。」

「ありがとう!楽しみだわ。……その前に、運動するためのジャージやシューズを買わなくちゃ。今度、一緒に選んでくれる?」

「もちろんだよ!運動のモチベーションを維持するには、そういうのも大事だからね。」


僕の言葉に、菜摘さんは嬉しそうに笑って頷いた。

ついさっきまでの妖艶な姿の菜摘さんから、無邪気で可愛らしい表情の菜摘さんに変わっていた。

僕は楽しそうに笑う菜摘さんを見て、さっきまでの胸の高まりは自然と消えていた。
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