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「……それに、あんなことがあったからこそ……隼くんを好きになったのかもしれないわ。」
相変わらず僕を優しく抱き締めながら、菜摘さんが少し弾んだ声を出した。
「え……僕を?」
「そう。……私、今までずーっと年上の人が好きだったの。…一度だけ、年下の人と付き合ったことがあったけど…ほら、前にも言ったでしょう?結局裏切られたから、それ以降は年下を恋愛対象として見ることはなかったのよね。それに、仕事を始めてからは余計に……普段中学生と接していると、どうしても年下の子は生徒みたいに扱っちゃうことも多かったのよ。」
菜摘さんの話を聞きながら、確かに僕と初めて出会った時、彼女はまるで優しい先生のように接してくれていたことを思い出した。
「だけど……一度男子生徒たちにあんなことをされてから…私はもう、中学生や高校生が怖くなってしまったの。でも小学生なら…まだ純粋だし、可愛いって思えてたの。だから隼くんの小学校の子たちとも遊んでたんだけど…中学生より更に下の子たちに対して、まさか恋愛感情なんて持つはずもないじゃない?……でもね……」
ここまで話して、菜摘さんは一度僕から体を離した。
そして僕の目を真っ直ぐ見て、続きを話した。
「隼くんと知り合って…話していくうちに……『この子はなんて大人なんだろう』って思うことが多かったの…。…ほら、私に乱暴なことをした子たちは中学生だったけど…この子はまだ小学生なのに…どうしてこんなに優しくて私を大切にしてくれるんだろう、って…。隼くんは、私が知っている中学生よりもずっとずっと…大人に見えたのよ。」
真正面から放たれた菜摘さんの言葉は、僕の顔を一瞬にして赤く染めた。
「あ、ありがとう……」
恥ずかしくて、思わずこんな返答しかできなかった。
「でもこれって、私の経験がなければ、もしかしたら隼くんを他の中学生と比較することもなかったってことじゃない?そして、隼くんの魅力に気づかなかったかもしれない。……そう思うと、大きく見れば、結果的に私が隼くんに恋出来たことにも繋がるんじゃないかなって思うのよね。」
なるほど……
心でそう言いながら、思わず菜摘さんから目を逸らした。
もしかしたら今菜摘さんが話したことは、菜摘さんが自分の過去の苦しみから解き放たれるための理由にしているのかもしれない、と思った。
教え子の中学生に傷つけられたからこそ、彼らより更に年下の僕が大人に見えて好きになってくれた…
もちろん本当にそうなのかもしれないが、そういうことにして過去の辛い経験を整理しているのかもしれないな、とも思った。
「それなら……菜摘さんは凄いよ。過去の自分に打ち勝ったんだから……。きっと、菜摘さんならこれから先も強く生きていける。それに…今は僕も一緒にいるんだから……二人でいれば、きっと何があっても大丈夫だよ。」
菜摘さんを苦しめた過去が今の幸せに繋がっているのなら…
そして、その幸せの中に僕もいるのなら…
菜摘さんはこれから先も、僕と一緒にいる限りはずっと幸せでいられるのではないだろうか。
「ふふ。……そうね!ありがとう隼くん。…私…隼くんがいるなら、きっとどんなことにだって立ち向かっていけるわ。」
そう言って微笑んだ菜摘さんの頬に流れた滴は、流れ落ちていく度に透明度を増していった。
彼女の透明に光る涙が眩しかった。
ガラスの破片のように美しく鋭くこの身に刺さってきた。
だから今度は、僕が彼女を抱き締めていた。
真夏の夜の海。
冷たい熱と耳を擽る波の音が交わる砂浜。
真珠を浮かべたような月。
夜空に刺繍されたスパンコールのような星屑たち。
目の前に映る全ては、これから僕たちが悩み流していくであろう涙のように、どこか暖かくてどこか気高い輝きを持っていた。
相変わらず僕を優しく抱き締めながら、菜摘さんが少し弾んだ声を出した。
「え……僕を?」
「そう。……私、今までずーっと年上の人が好きだったの。…一度だけ、年下の人と付き合ったことがあったけど…ほら、前にも言ったでしょう?結局裏切られたから、それ以降は年下を恋愛対象として見ることはなかったのよね。それに、仕事を始めてからは余計に……普段中学生と接していると、どうしても年下の子は生徒みたいに扱っちゃうことも多かったのよ。」
菜摘さんの話を聞きながら、確かに僕と初めて出会った時、彼女はまるで優しい先生のように接してくれていたことを思い出した。
「だけど……一度男子生徒たちにあんなことをされてから…私はもう、中学生や高校生が怖くなってしまったの。でも小学生なら…まだ純粋だし、可愛いって思えてたの。だから隼くんの小学校の子たちとも遊んでたんだけど…中学生より更に下の子たちに対して、まさか恋愛感情なんて持つはずもないじゃない?……でもね……」
ここまで話して、菜摘さんは一度僕から体を離した。
そして僕の目を真っ直ぐ見て、続きを話した。
「隼くんと知り合って…話していくうちに……『この子はなんて大人なんだろう』って思うことが多かったの…。…ほら、私に乱暴なことをした子たちは中学生だったけど…この子はまだ小学生なのに…どうしてこんなに優しくて私を大切にしてくれるんだろう、って…。隼くんは、私が知っている中学生よりもずっとずっと…大人に見えたのよ。」
真正面から放たれた菜摘さんの言葉は、僕の顔を一瞬にして赤く染めた。
「あ、ありがとう……」
恥ずかしくて、思わずこんな返答しかできなかった。
「でもこれって、私の経験がなければ、もしかしたら隼くんを他の中学生と比較することもなかったってことじゃない?そして、隼くんの魅力に気づかなかったかもしれない。……そう思うと、大きく見れば、結果的に私が隼くんに恋出来たことにも繋がるんじゃないかなって思うのよね。」
なるほど……
心でそう言いながら、思わず菜摘さんから目を逸らした。
もしかしたら今菜摘さんが話したことは、菜摘さんが自分の過去の苦しみから解き放たれるための理由にしているのかもしれない、と思った。
教え子の中学生に傷つけられたからこそ、彼らより更に年下の僕が大人に見えて好きになってくれた…
もちろん本当にそうなのかもしれないが、そういうことにして過去の辛い経験を整理しているのかもしれないな、とも思った。
「それなら……菜摘さんは凄いよ。過去の自分に打ち勝ったんだから……。きっと、菜摘さんならこれから先も強く生きていける。それに…今は僕も一緒にいるんだから……二人でいれば、きっと何があっても大丈夫だよ。」
菜摘さんを苦しめた過去が今の幸せに繋がっているのなら…
そして、その幸せの中に僕もいるのなら…
菜摘さんはこれから先も、僕と一緒にいる限りはずっと幸せでいられるのではないだろうか。
「ふふ。……そうね!ありがとう隼くん。…私…隼くんがいるなら、きっとどんなことにだって立ち向かっていけるわ。」
そう言って微笑んだ菜摘さんの頬に流れた滴は、流れ落ちていく度に透明度を増していった。
彼女の透明に光る涙が眩しかった。
ガラスの破片のように美しく鋭くこの身に刺さってきた。
だから今度は、僕が彼女を抱き締めていた。
真夏の夜の海。
冷たい熱と耳を擽る波の音が交わる砂浜。
真珠を浮かべたような月。
夜空に刺繍されたスパンコールのような星屑たち。
目の前に映る全ては、これから僕たちが悩み流していくであろう涙のように、どこか暖かくてどこか気高い輝きを持っていた。
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