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「私が赴任してた中学校がね…その、少し荒れた生徒もいた学校で……。もちろんほとんどの生徒は…8割くらいの生徒は真面目な子たちだったよ?でも、残りの2割の子たちが本当に大変で…他の先生方も手を焼いてたの。……そして、若くて経験もない女っていうことから…私、その子たちに目をつけられちゃったのよね…。」
少しずつ思い出していくうちに辛くなったのか、菜摘さんは言葉を途切れ途切れに繋いでいる。
「……目を付けられた…って…?」
「ん…まあ…要は、私の家を突き止めて中に入って来ようとしたり……放課後に部室や教材室で一人で仕事をしていると、大勢で入ってきたり……最終的には、その…変な写真を撮られて、色々脅されたりしてたわ…。」
菜摘さんの告白に、僕は衝撃を受けて何も言えなかった。
「へ、変な写真って……」
「まあ、隼くんが想像しているようなもので合ってると思うわ。…夜に突然電気を消されて後ろから羽交い締めにされて、口を塞がれちゃあ声を出して助けを求めることもできなかったわ。それに、他の先生方もほとんど帰っちゃってた時間だったしね。」
「……そんな……」
その時の様子を想像して、思わず身震いしてしまった。
誰にも助けてもらえない中で、不安と恐怖にさらされながら嫌なことをされ続ける……
決して僕のいじめの経験とは比にならないだろうけど、その時の絶望感と苦しさといったら、しばらくはトラウマになってしまうレベルのものであろうことは、容易く想像できる。
いつも僕の前では明るく振る舞っていた菜摘さんが、そんな苦しい思いをしていたなんて……
「それに、その男の子たちも……『元はといえば先生が誘惑してきたのが悪いんだ』って。もちろん、私は誘惑なんてしてないわ。そんな風に生徒を見たことなんてなかったし、そもそも忙しくてそれどころでもなかったし…。でも、そういうの…よく誤解されちゃうのよね。だから…私ももっと気を付ければよかったんだけどね。」
「そんなことない!菜摘さんは悪くないよ!」
「…隼くん…?」
「ひどすぎる……その人たち、ひどすぎるよ…。菜摘さんは、絶対に悪いことなんて何もしてないのに…。」
「…隼くん…」
「菜摘さんはただ、任された仕事を頑張ってただけなんだよ。だから夜遅くまで仕事をしていたのに…そのせいで誰にも助けられないまま、そんなひどいことをされるなんて……しかも、勝手に誘われたと思って菜摘さんのせいにしようとするなんて…おかしいよ。」
「…隼くん…ありがとう。でも、もう大丈夫よ。…私が休職する時にこのことが明るみになって、その子たちは然るべき処分をされたし、今は反省もしているようだから。」
「でも……!」
物凄く苦しい気持ちになった僕は、気がついたら目に涙を浮かべていた。
菜摘さんはそんな僕を優しく抱き締めた。
「本当に、もう大丈夫だから……。」
耳元でそう囁いて、僕の背中を擦ってくれた。
彼女の言葉は偽りのないものだと、全身で感じることができた。
「今はこうして…隼くんと出会えて、こんなに幸せに生きている。…そのおかげで、あの頃の辛い記憶すらも、今は気にならなくなったわ。」
菜摘さんは、僕を落ち着かせるように、優しい口調で何度も同じようなことを言ってくれていた。
僕を包む菜摘さんの体温が、いつもよりも暖かく感じた。
少しずつ思い出していくうちに辛くなったのか、菜摘さんは言葉を途切れ途切れに繋いでいる。
「……目を付けられた…って…?」
「ん…まあ…要は、私の家を突き止めて中に入って来ようとしたり……放課後に部室や教材室で一人で仕事をしていると、大勢で入ってきたり……最終的には、その…変な写真を撮られて、色々脅されたりしてたわ…。」
菜摘さんの告白に、僕は衝撃を受けて何も言えなかった。
「へ、変な写真って……」
「まあ、隼くんが想像しているようなもので合ってると思うわ。…夜に突然電気を消されて後ろから羽交い締めにされて、口を塞がれちゃあ声を出して助けを求めることもできなかったわ。それに、他の先生方もほとんど帰っちゃってた時間だったしね。」
「……そんな……」
その時の様子を想像して、思わず身震いしてしまった。
誰にも助けてもらえない中で、不安と恐怖にさらされながら嫌なことをされ続ける……
決して僕のいじめの経験とは比にならないだろうけど、その時の絶望感と苦しさといったら、しばらくはトラウマになってしまうレベルのものであろうことは、容易く想像できる。
いつも僕の前では明るく振る舞っていた菜摘さんが、そんな苦しい思いをしていたなんて……
「それに、その男の子たちも……『元はといえば先生が誘惑してきたのが悪いんだ』って。もちろん、私は誘惑なんてしてないわ。そんな風に生徒を見たことなんてなかったし、そもそも忙しくてそれどころでもなかったし…。でも、そういうの…よく誤解されちゃうのよね。だから…私ももっと気を付ければよかったんだけどね。」
「そんなことない!菜摘さんは悪くないよ!」
「…隼くん…?」
「ひどすぎる……その人たち、ひどすぎるよ…。菜摘さんは、絶対に悪いことなんて何もしてないのに…。」
「…隼くん…」
「菜摘さんはただ、任された仕事を頑張ってただけなんだよ。だから夜遅くまで仕事をしていたのに…そのせいで誰にも助けられないまま、そんなひどいことをされるなんて……しかも、勝手に誘われたと思って菜摘さんのせいにしようとするなんて…おかしいよ。」
「…隼くん…ありがとう。でも、もう大丈夫よ。…私が休職する時にこのことが明るみになって、その子たちは然るべき処分をされたし、今は反省もしているようだから。」
「でも……!」
物凄く苦しい気持ちになった僕は、気がついたら目に涙を浮かべていた。
菜摘さんはそんな僕を優しく抱き締めた。
「本当に、もう大丈夫だから……。」
耳元でそう囁いて、僕の背中を擦ってくれた。
彼女の言葉は偽りのないものだと、全身で感じることができた。
「今はこうして…隼くんと出会えて、こんなに幸せに生きている。…そのおかげで、あの頃の辛い記憶すらも、今は気にならなくなったわ。」
菜摘さんは、僕を落ち着かせるように、優しい口調で何度も同じようなことを言ってくれていた。
僕を包む菜摘さんの体温が、いつもよりも暖かく感じた。
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