青春日記~禁断の恋だとしても、忘れられない日常を綴ります~

いちごみるく

文字の大きさ
上 下
182 / 217
21頁

7

しおりを挟む
夜の砂浜は、満月に導かれて艷やかな潮騒を立てる。

波間に揺れる朧げな月は、目を細めて僕たちの夜を誘う。

そんな夜の海岸を、二人は歩いていた。


「あそこに焚き火をしている人たちがいるわ。…ほら、そこにも。」

「案外、この時間でも沢山人がいるんだね。」

「まあ、夏休み中だからね。……隼くん。ここで花火しない?」

「うん!ここならあまりコテージから離れていないし。」


僕たちは持ってきた沢山の花火とバケツを置いて、一つ一つ袋から花火を取り出した。

打ち上げ花火も楽しみたかったが、ここの海岸は禁止されているとのことで、残念ながら手持ち花火だけを用意した。

「…今日は月光があるから、夜なのに割と明るいね。その上花火をしたら、もっと明るくなりそうだわ。」

「うん…」

うっとりするほど美しい菜摘さんの白い手が、優しく花火を選別している。

彼女は自分にそっくり似合った淡いピンク色の花火を手に取って、愛おしそうに隅から隅まで眺めていた。

その美しい瞳が落とす視線は、花火が着火しそうなくらいに輝いていた。

「ほら、隼くんもどうぞ。」

「ありがとう」

菜摘さんは、僕が持っている花火にそっと彼女のものを重ね合わせた。

パチパチと弾ける火花が共有され、足元が一気に明るくなった。

「きれい…」

思わずそう呟いた僕を、菜摘さんは隣で優しく見ている。

「きれいね~……でも、一瞬で終わっちゃうものね。」

ポツリと呟いた菜摘さんの声が、儚く僕の耳に響いた。

その柔らかな哀しみは、夜凪が彼女の言葉を優しく包んでいくように広がっていった。


「…だから余計にキレイなのかな。すぐに消えちゃうって、分かっているから…意識を集中させて見るでしょう?…だから…きれいに見えるのかなって。」


真っ黒なシルクのような夜の海に抱かれている高揚感からか、気がついたら僕もふと、考えたことを言葉にしていた。

「なるほどねえ…。虹とかシャボン玉って、すぐに消えちゃうし、やっぱり見てるときれいだなって思うものね。…さすが隼くん!すごくいい考察するわね。」

「ありがとう…考察ってほどのものでもないけどね。」


菜摘さんの言葉に少し熱くなった頬を海風で冷やすように、僕はじっと海の方を見ていた。


菜摘さんははしゃぐようにして花火で遊んでいる。

赤、青、黃、紫、銀、金……

手の先で次々と起こる炎色反応は、まるで僕たち人間の心を映しているようだった。

僕が菜摘さんに感じる気落ち。

菜摘さんが僕に感じる気持ち。

どちらも、きっとこの花火みたいに、激しく儚いものではないだろうか。

自分の中で燃える色んな気持ちが激しくぶつかり合い、刹那的な感情が泡のように消えていく。


だけどその感情が残した鋭い熱は、消えることなく胸に刻まれていく。


そんな、二人の恋心みたいな花火だと思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺は彼女に養われたい

のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。 そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。 ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ! 「ヒモになるのも楽じゃない……!」 果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか? ※他のサイトでも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

その男、人の人生を狂わせるので注意が必要

いちごみるく
現代文学
「あいつに関わると、人生が狂わされる」 「密室で二人きりになるのが禁止になった」 「関わった人みんな好きになる…」 こんな伝説を残した男が、ある中学にいた。 見知らぬ小グレ集団、警察官、幼馴染の年上、担任教師、部活の後輩に顧問まで…… 関わる人すべてを夢中にさせ、頭の中を自分のことで支配させてしまう。 無意識に人を惹き込むその少年を、人は魔性の男と呼ぶ。 そんな彼に関わった人たちがどのように人生を壊していくのか…… 地位や年齢、性別は関係ない。 抱える悩みや劣等感を少し刺激されるだけで、人の人生は呆気なく崩れていく。 色んな人物が、ある一人の男によって人生をジワジワと壊していく様子をリアルに描いた物語。 嫉妬、自己顕示欲、愛情不足、孤立、虚言…… 現代に溢れる人間の醜い部分を自覚する者と自覚せずに目を背ける者…。 彼らの運命は、主人公・醍醐隼に翻弄される中で確実に分かれていく。 ※なお、筆者の拙作『あんなに堅物だった俺を、解してくれたお前の腕が』に出てくる人物たちがこの作品でもメインになります。ご興味があれば、そちらも是非! ※長い作品ですが、1話が300〜1500字程度です。少しずつ読んで頂くことも可能です!

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...