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夜の砂浜は、満月に導かれて艷やかな潮騒を立てる。
波間に揺れる朧げな月は、目を細めて僕たちの夜を誘う。
そんな夜の海岸を、二人は歩いていた。
「あそこに焚き火をしている人たちがいるわ。…ほら、そこにも。」
「案外、この時間でも沢山人がいるんだね。」
「まあ、夏休み中だからね。……隼くん。ここで花火しない?」
「うん!ここならあまりコテージから離れていないし。」
僕たちは持ってきた沢山の花火とバケツを置いて、一つ一つ袋から花火を取り出した。
打ち上げ花火も楽しみたかったが、ここの海岸は禁止されているとのことで、残念ながら手持ち花火だけを用意した。
「…今日は月光があるから、夜なのに割と明るいね。その上花火をしたら、もっと明るくなりそうだわ。」
「うん…」
うっとりするほど美しい菜摘さんの白い手が、優しく花火を選別している。
彼女は自分にそっくり似合った淡いピンク色の花火を手に取って、愛おしそうに隅から隅まで眺めていた。
その美しい瞳が落とす視線は、花火が着火しそうなくらいに輝いていた。
「ほら、隼くんもどうぞ。」
「ありがとう」
菜摘さんは、僕が持っている花火にそっと彼女のものを重ね合わせた。
パチパチと弾ける火花が共有され、足元が一気に明るくなった。
「きれい…」
思わずそう呟いた僕を、菜摘さんは隣で優しく見ている。
「きれいね~……でも、一瞬で終わっちゃうものね。」
ポツリと呟いた菜摘さんの声が、儚く僕の耳に響いた。
その柔らかな哀しみは、夜凪が彼女の言葉を優しく包んでいくように広がっていった。
「…だから余計にキレイなのかな。すぐに消えちゃうって、分かっているから…意識を集中させて見るでしょう?…だから…きれいに見えるのかなって。」
真っ黒なシルクのような夜の海に抱かれている高揚感からか、気がついたら僕もふと、考えたことを言葉にしていた。
「なるほどねえ…。虹とかシャボン玉って、すぐに消えちゃうし、やっぱり見てるときれいだなって思うものね。…さすが隼くん!すごくいい考察するわね。」
「ありがとう…考察ってほどのものでもないけどね。」
菜摘さんの言葉に少し熱くなった頬を海風で冷やすように、僕はじっと海の方を見ていた。
菜摘さんははしゃぐようにして花火で遊んでいる。
赤、青、黃、紫、銀、金……
手の先で次々と起こる炎色反応は、まるで僕たち人間の心を映しているようだった。
僕が菜摘さんに感じる気落ち。
菜摘さんが僕に感じる気持ち。
どちらも、きっとこの花火みたいに、激しく儚いものではないだろうか。
自分の中で燃える色んな気持ちが激しくぶつかり合い、刹那的な感情が泡のように消えていく。
だけどその感情が残した鋭い熱は、消えることなく胸に刻まれていく。
そんな、二人の恋心みたいな花火だと思った。
波間に揺れる朧げな月は、目を細めて僕たちの夜を誘う。
そんな夜の海岸を、二人は歩いていた。
「あそこに焚き火をしている人たちがいるわ。…ほら、そこにも。」
「案外、この時間でも沢山人がいるんだね。」
「まあ、夏休み中だからね。……隼くん。ここで花火しない?」
「うん!ここならあまりコテージから離れていないし。」
僕たちは持ってきた沢山の花火とバケツを置いて、一つ一つ袋から花火を取り出した。
打ち上げ花火も楽しみたかったが、ここの海岸は禁止されているとのことで、残念ながら手持ち花火だけを用意した。
「…今日は月光があるから、夜なのに割と明るいね。その上花火をしたら、もっと明るくなりそうだわ。」
「うん…」
うっとりするほど美しい菜摘さんの白い手が、優しく花火を選別している。
彼女は自分にそっくり似合った淡いピンク色の花火を手に取って、愛おしそうに隅から隅まで眺めていた。
その美しい瞳が落とす視線は、花火が着火しそうなくらいに輝いていた。
「ほら、隼くんもどうぞ。」
「ありがとう」
菜摘さんは、僕が持っている花火にそっと彼女のものを重ね合わせた。
パチパチと弾ける火花が共有され、足元が一気に明るくなった。
「きれい…」
思わずそう呟いた僕を、菜摘さんは隣で優しく見ている。
「きれいね~……でも、一瞬で終わっちゃうものね。」
ポツリと呟いた菜摘さんの声が、儚く僕の耳に響いた。
その柔らかな哀しみは、夜凪が彼女の言葉を優しく包んでいくように広がっていった。
「…だから余計にキレイなのかな。すぐに消えちゃうって、分かっているから…意識を集中させて見るでしょう?…だから…きれいに見えるのかなって。」
真っ黒なシルクのような夜の海に抱かれている高揚感からか、気がついたら僕もふと、考えたことを言葉にしていた。
「なるほどねえ…。虹とかシャボン玉って、すぐに消えちゃうし、やっぱり見てるときれいだなって思うものね。…さすが隼くん!すごくいい考察するわね。」
「ありがとう…考察ってほどのものでもないけどね。」
菜摘さんの言葉に少し熱くなった頬を海風で冷やすように、僕はじっと海の方を見ていた。
菜摘さんははしゃぐようにして花火で遊んでいる。
赤、青、黃、紫、銀、金……
手の先で次々と起こる炎色反応は、まるで僕たち人間の心を映しているようだった。
僕が菜摘さんに感じる気落ち。
菜摘さんが僕に感じる気持ち。
どちらも、きっとこの花火みたいに、激しく儚いものではないだろうか。
自分の中で燃える色んな気持ちが激しくぶつかり合い、刹那的な感情が泡のように消えていく。
だけどその感情が残した鋭い熱は、消えることなく胸に刻まれていく。
そんな、二人の恋心みたいな花火だと思った。
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