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「おはよう隼くん。」
まだ眠い目をこすりながら、隣で小さく囁く声に反応する。
「……おはよう、菜摘さん……」
少しずつ開いていく目に、静かな木漏れ日が差し込む。
窓から放出される長方形の光が、木製の床に当たって木の香りを充満させる。
僕と菜摘さんは、コテージ生活2日目の朝を迎えた。
「…昨日…結局海にも行ってないし、バーベキューもしてないし、花火もできなかったね。」
起きてそのままベッドから出ずに、ふと思い出したので、菜摘さんに話しかけた。
菜摘さんは少しまだ眠たそうな顔をして頷いた。
「そうね…。移動だけで大分疲れちゃったしね。…まあでも、まだまだ日にちはあるわ。今日以降、やりたいことをやりましょ。」
「うん!今日こそ海に行きたい!」
自然と弾んだ声が出る。
優しい朝日が、これからたくさん用意されている二人だけの時間を照らしているかのよう。
菜摘さんも同じ気持ちなのか、見守るように目を細めて僕の顔を見る。
「隼くん、海が好きなのね。前も海に行きたいってはしゃいでたわよね。」
「うん、好きだよ!僕の生まれが東北の沿岸部だったからかな。海を見ていると、懐かしい気持ちになるんだ。」
「そう。……私も海は好きよ。ずーっと見ていられるものね。」
「うん!日中の海も好きだし、夜の海も好きなんだ。ここにいると、夜でもすぐに海を見に行けるでしょ?それも楽しみ…!」
「はしゃいでる隼くん、可愛い。」
そう言って菜摘さんは僕のおでこに優しく口づけをした。
少し乾いた唇から、昨夜の熱がまだ残っているような気配を感じた。
「昨日、私最後どうなってた?…正直、記憶ないわ。」
「記憶ないと思ったよ……だって…今までで一番すごかったし…うん。」
「…なにそれ…恥ずかしいんだけど…ねえ、どうなってたの?」
「教えない。僕だけの秘密だもん。」
「んもう、隼くんの意地悪っ!」
菜摘さんは、そう言ってリスのように頬を膨らませた。
最近、彼女の拗ねている姿が可愛くて、こんな風に意地悪してしまうことがある。
「なんだろうね……。…まあ一つ言えることは、菜摘さんはいつでも可愛いってこと。」
追い打ちをかけていることを若干自覚しながらも、普段ならきっと恥ずかしくて伝えきれない素直な気持ちを、全て菜摘さんにぶつけてしまうことにした。
「なっ…何よ…それ…」
「そうやってすぐ照れるところも可愛い。顔が赤くなりやすいところも可愛いし、すぐ目がウルってなるところも可愛い。」
「な、何なの隼くん…なんか、ここに来てから…ずるいわ…」
「思ってることを言っただけなんだけどな…。菜摘さんがいつも、すぐに僕を可愛いって言ってくれるでしょ?だから僕も真似しただけだよ。」
「…あっそう……」
再び顔を赤くして布団に顔を埋めた菜摘さんが、その言葉とは裏腹に、布団の中で僕の手を握ってきた。
その手が想像よりも熱かったことに驚いた。
そして彼女のいじらしさを抱きしめるように、僕もぎゅっと手を握り返した。
周りに誰もいない状況で二人きりの世界に浸るということは、こんなにも自分を素直にさせるのだと初めて知った。
いつもより大胆な自分。
いつもより初心な反応をする菜摘さん。
きっと、どちらも正反対に同じなのだろう。
普段とは違う自分を、ここに来て隠すことなく晒している。
自分と相手の新たな一面を見つけて、その新鮮さを享受している。
逆転しているかのような立場を、自覚しながらも敢えて楽しんでいる。
それはきっと今日に限らず、この1週間続いていくのではないかと思った。
まだ眠い目をこすりながら、隣で小さく囁く声に反応する。
「……おはよう、菜摘さん……」
少しずつ開いていく目に、静かな木漏れ日が差し込む。
窓から放出される長方形の光が、木製の床に当たって木の香りを充満させる。
僕と菜摘さんは、コテージ生活2日目の朝を迎えた。
「…昨日…結局海にも行ってないし、バーベキューもしてないし、花火もできなかったね。」
起きてそのままベッドから出ずに、ふと思い出したので、菜摘さんに話しかけた。
菜摘さんは少しまだ眠たそうな顔をして頷いた。
「そうね…。移動だけで大分疲れちゃったしね。…まあでも、まだまだ日にちはあるわ。今日以降、やりたいことをやりましょ。」
「うん!今日こそ海に行きたい!」
自然と弾んだ声が出る。
優しい朝日が、これからたくさん用意されている二人だけの時間を照らしているかのよう。
菜摘さんも同じ気持ちなのか、見守るように目を細めて僕の顔を見る。
「隼くん、海が好きなのね。前も海に行きたいってはしゃいでたわよね。」
「うん、好きだよ!僕の生まれが東北の沿岸部だったからかな。海を見ていると、懐かしい気持ちになるんだ。」
「そう。……私も海は好きよ。ずーっと見ていられるものね。」
「うん!日中の海も好きだし、夜の海も好きなんだ。ここにいると、夜でもすぐに海を見に行けるでしょ?それも楽しみ…!」
「はしゃいでる隼くん、可愛い。」
そう言って菜摘さんは僕のおでこに優しく口づけをした。
少し乾いた唇から、昨夜の熱がまだ残っているような気配を感じた。
「昨日、私最後どうなってた?…正直、記憶ないわ。」
「記憶ないと思ったよ……だって…今までで一番すごかったし…うん。」
「…なにそれ…恥ずかしいんだけど…ねえ、どうなってたの?」
「教えない。僕だけの秘密だもん。」
「んもう、隼くんの意地悪っ!」
菜摘さんは、そう言ってリスのように頬を膨らませた。
最近、彼女の拗ねている姿が可愛くて、こんな風に意地悪してしまうことがある。
「なんだろうね……。…まあ一つ言えることは、菜摘さんはいつでも可愛いってこと。」
追い打ちをかけていることを若干自覚しながらも、普段ならきっと恥ずかしくて伝えきれない素直な気持ちを、全て菜摘さんにぶつけてしまうことにした。
「なっ…何よ…それ…」
「そうやってすぐ照れるところも可愛い。顔が赤くなりやすいところも可愛いし、すぐ目がウルってなるところも可愛い。」
「な、何なの隼くん…なんか、ここに来てから…ずるいわ…」
「思ってることを言っただけなんだけどな…。菜摘さんがいつも、すぐに僕を可愛いって言ってくれるでしょ?だから僕も真似しただけだよ。」
「…あっそう……」
再び顔を赤くして布団に顔を埋めた菜摘さんが、その言葉とは裏腹に、布団の中で僕の手を握ってきた。
その手が想像よりも熱かったことに驚いた。
そして彼女のいじらしさを抱きしめるように、僕もぎゅっと手を握り返した。
周りに誰もいない状況で二人きりの世界に浸るということは、こんなにも自分を素直にさせるのだと初めて知った。
いつもより大胆な自分。
いつもより初心な反応をする菜摘さん。
きっと、どちらも正反対に同じなのだろう。
普段とは違う自分を、ここに来て隠すことなく晒している。
自分と相手の新たな一面を見つけて、その新鮮さを享受している。
逆転しているかのような立場を、自覚しながらも敢えて楽しんでいる。
それはきっと今日に限らず、この1週間続いていくのではないかと思った。
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