青春日記~禁断の恋だとしても、忘れられない日常を綴ります~

いちごみるく

文字の大きさ
上 下
174 / 217
20頁

5

しおりを挟む
「隼くんは、寂しくないの?私が働き始めること。」

円な白泡をフッ、と優しく飛ばしながら、菜摘さんは僕に問うた。

その瞬間、爽やかなフローラルの香りが鼻を包む。

菜摘さんの最近のマイブームは、いい香りのするバブルバスを楽しむことらしい。

汗をかいた僕と菜摘さんは、一緒に泡風呂に入っていた。

「そりゃあ…寂しくないと言ったら嘘になるよ。会える時間が減ることもそうだし、菜摘さんが僕と歳の近い人たちに色んなことを教えるんだっていうことも…少し嫉妬しちゃうし。それよりもやっぱり一番怖いのは、忙しくなって僕への気持ちが薄れちゃうことだよ……。いくら会えなくても、他の生徒と接してても、僕への気持ちが変わらないんだったら…僕も会えない時間に色々頑張れるしさ。」

「それは私も全く同じよ隼くん。……むしろ、私の方が不安よ。隼くんが中学に入って環境が変わると、私への気持ちも変わってしまうんじゃないか、って。」

「そんなこと……あり得ないよ。むしろ、そうやって不安になった菜摘さんがまた自暴自棄にならなきゃいいなっていう心配が大きいよ。」

「それはもうしないわ。………と言っても、こればっかりはお互いを信じ合うしかないわよね。」


そうだね……

そう呟いた僕の声は、二人の体を包む純白の泡に消えていった。
 
お互いを信じること…
 
それは、菜摘さんとお義兄さんの一件で、むしろお互い意識するようになったように思う。
 
あんなことがあっても、僕は菜摘さんを疑うようになったりはしなかった。
 
それはきっと、菜摘さんのあの行動のきっかけが、僕にあったからかもしない。
 
僕が菜摘さんを不安にさせないようにさえしていれば、菜摘さんは本当に僕以外の人のところへ行かないでいてくれるような気がしている。
 
だから、仮に菜摘さんとしばらく会えない日々が続いても、僕の気持ちさえしっかりしていれば大丈夫。
 
そう思って僕は素直に菜摘さんの復職を応援する気でいる。
 
 
「……私…隼くんが受験する中学の採用試験を受けてみようかな。…そうすれば、学校でもお互いの様子がわかるじゃない。」
 
少なくなっていく泡の粒を愛おしそうに指で触れながら、菜摘さんがそう言った。
 
「僕もずっとそうなってほしいなって思ってるよ。…でも、そんなにうまくいくものなのかなあ。」
 
「一応、教員の募集は出ていたわ。応募はしてみるつもりよ。」
 
「それじゃあ僕も必死になって頑張って絶対に合格しなきゃな。」
 
「そうよ。そのつもりで頑張って!」
 
 
ポン、と優しく菜摘さんの手が僕の頭に乗る。
 
その手から伝わるほんの少しのプレッシャーは、不思議なことにじんわりと僕の心の奥を燃やしたような気がした。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

土俵の華〜女子相撲譚〜

葉月空
青春
土俵の華は女子相撲を題材にした青春群像劇です。 相撲が好きな美月が女子大相撲の横綱になるまでの物語 でも美月は体が弱く母親には相撲を辞める様に言われるが美月は母の反対を押し切ってまで相撲を続けてる。何故、彼女は母親の意見を押し切ってまで相撲も続けるのか そして、美月は横綱になれるのか? ご意見や感想もお待ちしております。

処理中です...