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「…あっ……隼くん……だめよいきなり…」

抱かれていた腕を菜摘さんの背中に回すと、彼女は僕の思考を見抜いたかのように軽く体を離した。

「だってもう2週間もこうして二人きりになれなかったんだよ……次だって、いつ二人になれるのか分かりやしない…」

「ごめんね隼くん。私のほうが忙しかったせいよ。」

「だから今のうちに菜摘さんとくっつきたい。…だめ?」

「あっ…かわいい…隼くん…そんな顔はずるいわ」

「菜摘さんの方こそいつも可愛いよ。そんなに可愛い顔して僕のこと抱きしめておいて、服を脱がせちゃだめなんてそれこそズルいよ…」

「隼くん、溜まってるのね」

「溜まってる、って何?」

「私と会えない間、1人でしなかったの?」

「……うん。菜摘さんと一緒がよかったから…」

「ふふ。隼くん本当に可愛い。大好きよ。……おいで」


そう言って目をつぶりながら尖らせた菜摘さんの唇に、僕は吸い寄せられるように自分の唇を重ねた。

この瞬間の痺れるような感覚は、菜摘さんに教えてもらったものだ。

一瞬にして全身が蕩けるような感覚も、菜摘さんのおかげで知った。

彼女は勉強以外にも、本当に色んなことを教えてくれる。

彼女と付き合ってから、僕は人生の経験値が倍以上に増えたような感じがする。


だけど、菜摘さんがまた教師に戻ったら、僕以外の沢山の子どもたちに色んなことを教えていくのだろうか…。

授業、部活、行事、普段の生活…

色んな場面で、子どもたちを成長させる為に菜摘さんは指導していくのだろうか……。

僕はそんな彼女の姿を見てみたい気もしたし、一方でその姿を想像した途端、改めて彼女は大人の社会人なんだということを意識した。

それは菜摘さんを少し遠い存在のように感じさせた訳でもなく、むしろ、何故かすごく身近な存在に近づいたような感じがした。

これまで僕の中での菜摘さんは、僕の彼女でありながら、どこか現実離れしたような存在だったからかもしれない。

まるで美しい女神のような、世俗から離れた存在。

そして彼女のそういった面を強調していたのは、仕事をしていなかったということもあるのだろう。

世俗を離れて1人緑に囲まれたアパートに住み、朝早く起きて夜に寝るという"一般的"な生活リズムに縛られず、趣味の料理や読書、映画鑑賞などをして生きる。

そしてほとんど外を出歩かず、時々僕たち小学生と遊んでくれる……

「普通の大人」とは違う生活を送っている彼女に、僕はどこか神聖さを感じていたまでもある。


しかしそれが教師という、日常的に接している身近な存在になると聞いたから、急に彼女に俗っぽさを帯びさせたのかもしれない。

だけどその俗っぽさは、彼女の新たな一面を開花するような期待が含まれていた。

だから、僕は彼女の教師復帰計画を心から応援したいと思った。
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