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「……隼くん……もしや、私が仕事し始めたら忙しくなって会う時間が減っちゃうっていうことを寂しく思ったんでしょ?」

「……そ、そんなことないよ……だって菜摘さん、早く復帰したいなって前から言ってたし……僕も、それを応援したいと思ってるから……」

まるで僕の目の奥を見透かすかのような大きな菜摘さんの黒目は、そのまま見ていると吸い込まれてしまいそうで、咄嗟に目を逸らした。

「ふーん……。ま、もし本格的に担任やら部活動の顧問やら任せてもらえたら、恐らく平日はもちろん、土日すら会えるか怪しくなっちゃうんだけどねー。」

「えっ!!……そんな……それは……」

「『それは』……何?続きは?」

「……寂しい……」

「やっぱり寂しいんじゃない!んもう、隼くんったら本当に可愛いんだから!」

「あっ…やめ、やめてよ……」

「よしよし、ほらこっちおいで」


揶揄うように僕の頭をくしゃくしゃに撫でた後、菜摘さんは僕の肩を抱いてそっと彼女の方へと引き寄せた。

「大丈夫よ。……仕事に戻っても、隼くんとの時間はちゃーんと確保するから。」

菜摘さんの甘い匂いのする柔らかな腕の中で、僕は菜摘さんのあやすような優しい声を聞いていた。

二人ともソファに座った状態で僕が菜摘さんの方へと倒れ込むように抱かれると、身長差の問題でちょうど僕の顔が菜摘さんの胸の中に埋まるような形になる。

安心するような柔らかさに加えて官能的な誘いをも含むこの体勢のおかげで、僕のさっきまでの寂しさが少しずつ霧のように散らばっていった。

そしてそれに代わるかのように、菜摘さんの肌に触れたい衝動が湧き上がってきた。
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