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「おお!さすが俺と同じ立場にある昭恵の考察は鋭いね。正にその通りだよ。」

「同じって…状況的には近いのかもしれないけど、私は隼くんたちが別れればいいなんて…そんなこと思わないわ。」

「っへー?ほんとかなあ。別に今更正直に言ってもいいと思うけどな。」

「本当よ。私は二人には…幸せになってほしいから。」

「その幸せの中に自分がいなくてもそう思えるのか?自分がそいつと幸せになりたいとか、少しは思うだろ。」

「それは…でも現状無理なんだから仕方ないじゃない。ならせめて、好きな人には幸せになってほしいわ。」

「だからその幸せを自分で与えたいって思わねえのかよ?今は付き合ってても、結婚してるわけじゃないんだし、いつかは別れるかもしれないだろ。そのときに自分ならもっと幸せにできるのになって…そう考えることもないのかよ?」

「そんなこと…考えないわ。」

「ふーん…お前、本当に隼のこと好きなのかよ。」

「好きよ。……好きすぎて…おかしくなりそうなくらい好き。」


いつの日か僕と二人で下校した時に見せたような、哀しそうな顔をしながら昭恵さんがそう断言した。

その表情や語気のあまりの強さに、僕と村上くんは一瞬黙ってしまった。

「……そんなに好きならなんで…奪いたいとか別れてほしいとか思わないんだよ…」

村上くんは自分のあふれた気持ちを止めようともせず、そこら中にまき散らすように呟いた。

「なあ隼。俺たち、最近仲良くなってこうやって遊ぶことも増えたよな?お前が菜摘さんとの関係を両親に認めてもらいたいって言ってた時も協力したし、周りの奴らに何か聞かれても、俺の口からは言わないようにしてる。……でも俺が菜摘さんを好きでいる限り、お前は俺のライバルなんだよ。敵なんだよ。友達としてはお前のこと好きだし、尊敬してる部分もたくさんあるけど、それでもお前はまだ俺のライバルなんだって事を忘れんなよ。」


一息にまくし立てる村上くんに、僕は咄嗟に何も言えなかった。

村上くんから「敵」だと思われているということは、考えてみれば当然のはずだ。

それでも最近は仲良くなりすぎて、その可能性を考えないようにしていたのかもしれない。

「そう…だよね…。村上くんは一途だから、たとえ僕と菜摘さんが付き合っててそれが周知の関係になったとしても、簡単には諦めてくれないよね。」

「ああ。諦めないね。あんま平和ボケしてっと、まじで奪うからな。」

「奪うって簡単にいうけどさ…そもそも、それができたらこんなに苦しくないじゃない。好きな相手が自分を選んでくれてたら、今付き合えてるのは自分のはずよ。そうじゃないってことは、こちらがいくら頑張ったってその相手には選ばれないってことじゃないの?」

昭恵さんがそう言うと、村上くんは昭恵さんの方に体を向き直して、真正面で向き合うような体勢をとった。

「甘ったれた事言ってんなよ。そうやって簡単に物事を諦める奴を、誰が選ぶと思う?」

「失恋した人は…甘えることもできないの?そりゃあ、村上くんみたいに自分に自信があればいつかは相手を自分に振り向かせられるって思えるかもしれないわよ。けど、ほとんどの人はそんなのできないわよ。振られた時点で自信をなくすし落ち込むの。…そんでもって他の人とうまくいってる相手を諦めずに追い続けろなんて、そんなの苦行じゃない。諦めてしまった方が楽になるし救われるっていう人もいるのよ。あなたはその甘えすらも糾弾するの?」

「苦しいのは俺だって一緒だし、別に自分に自信があるわけでもねえよ。でもほかの奴と幸せそうにしてる自分の好きな人を見るたびに、俺は逃げたい気持ちよりも、その表情を自分の隣で見せてほしいって思うね。そのために今は自信がなくても、今後頑張ろうって思えるし。」

「……私はそんなに強くないよ…なれないよ…」


どんどんヒートアップしてく二人の口論を、僕は黙って見ているしかなかった。

昭恵さんの弱々しい叫びが、三人の空間に静寂をもたらした。





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