青春日記~禁断の恋だとしても、忘れられない日常を綴ります~

いちごみるく

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ある日の放課後。

今日は、菜摘さんが姪を預って病院に連れて行く日だと言っていたため、僕は珍しく昭恵さんと村上くんの三人でいつもの公園で遊んでいた。

湿った葉とアスファルトの香りが鼻を掠め、弱々しい風が頭上を通り過ぎて行く。

6月の空気は重くて弱い。

まるで僕らが抱える葛藤や不安でこの世界を包んでいるかのような天候だった。



「そういえば村上くん、あの手紙、菜摘さんに書いたんだって?」


3人ベンチに腰掛け談笑していた時、昭恵さんが突然話題をあの手紙の件に変えた。


「うん。菜摘さんには本当にお世話になってるしね。感謝もしたいし。」

「へえ。どんな感じで書いたのよ?」

「それは秘密。…てか隼。菜摘さん、あの手紙もらってから、何か俺について言ってなかった?」

「えっ…うーん、特には言ってなかったよ?」

「……そうなんだ。」

「なに?どうしたのよ。」

「…いや別にっ。…せっかく書いたのに感想の一つも言われないなんて、俺も報われねえなあと。」


くすんだ空を見上げながら発した村上くんの声は、非常に空虚な音を奏でた。

菜摘さん絡みになると、村上くんはよくこんな声を出す。


「次菜摘さんと会うとき、僕から聞いてみようか?村上くんの手紙の感想。」


空虚の中で響いた彼の声は、大きな反響を伴って僕の耳と心にまとわりつく。

村上くんに空虚な思いをさせている責任の一端として、僕はそう提案した。


「…いや…別にいいよもう。感想言うほどのものでもなかったってことだろ。」

「わからないわよ。村上くんの書いた内容次第では、菜摘さんも隼くんに言いにくいことだってあるでしょう。そのパターンかもしれないし。」

「あー……うん。そのパターンかも。」

「なら仕方ないじゃない。そもそも隼くんに言いにくい内容って何書いたのよ?告白系?」

「…いやー?……さあねえ…」

「何よ怪しいわね。」

「まあでも、俺は一回こっぴどく振られてるからな。な?隼。俺、お前の前で菜摘さんに振られたもんな?」

「あ、うん…でもあれは僕たちが付き合った後だったし…」

「そーだな。…でも、俺あのとき言ったよな?諦めないって。……つまりそういうこと。」

鋭く尖ったナイフの先を突きつけてくるかのような視線で、村上くんは僕の目を見た。

その鋭さに、咄嗟に言葉が出なかった。


「ええ…どういうことよ??まだ菜摘さんを諦めてないって事?」

「そゆこと~。だからまあ隼。そこんとこもちゃんと覚えとけよ。そんで菜摘さんにも、俺の存在を忘れてほしくないからさ。ちょっと手紙でアピってきた。だってそうでもしないと、今の菜摘さんは完全にお前のことしか眼中に入れなさそうだもん。それも今は仕方ないにしろさ、いざという時は俺という男もいるんだよって事を言っときたかったんだよ。

「『いざという時」って……」


「まるで僕と菜摘さんが別れの危機を迎えるみたいな言い方じゃないか」……

そう言いかけて、思わず口を閉ざした。

考えたくもない可能性がゼロとは言い切れないこと、そしてその可能性を望む村上くんの気持ちを僕は咎めることが出来ないということが、胸に浮かんだ全ての言葉を口から出すのに躊躇させた。


「なんだか村上くんったら、まるで二人が別れるのを期待してるような言い方するわね。」

僕が押し込めた言葉の続きを、昭恵さんが口にした。
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