青春日記~禁断の恋だとしても、忘れられない日常を綴ります~

いちごみるく

文字の大きさ
上 下
166 / 217
19頁

7

しおりを挟む
ある日の放課後。

今日は、菜摘さんが姪を預って病院に連れて行く日だと言っていたため、僕は珍しく昭恵さんと村上くんの三人でいつもの公園で遊んでいた。

湿った葉とアスファルトの香りが鼻を掠め、弱々しい風が頭上を通り過ぎて行く。

6月の空気は重くて弱い。

まるで僕らが抱える葛藤や不安でこの世界を包んでいるかのような天候だった。



「そういえば村上くん、あの手紙、菜摘さんに書いたんだって?」


3人ベンチに腰掛け談笑していた時、昭恵さんが突然話題をあの手紙の件に変えた。


「うん。菜摘さんには本当にお世話になってるしね。感謝もしたいし。」

「へえ。どんな感じで書いたのよ?」

「それは秘密。…てか隼。菜摘さん、あの手紙もらってから、何か俺について言ってなかった?」

「えっ…うーん、特には言ってなかったよ?」

「……そうなんだ。」

「なに?どうしたのよ。」

「…いや別にっ。…せっかく書いたのに感想の一つも言われないなんて、俺も報われねえなあと。」


くすんだ空を見上げながら発した村上くんの声は、非常に空虚な音を奏でた。

菜摘さん絡みになると、村上くんはよくこんな声を出す。


「次菜摘さんと会うとき、僕から聞いてみようか?村上くんの手紙の感想。」


空虚の中で響いた彼の声は、大きな反響を伴って僕の耳と心にまとわりつく。

村上くんに空虚な思いをさせている責任の一端として、僕はそう提案した。


「…いや…別にいいよもう。感想言うほどのものでもなかったってことだろ。」

「わからないわよ。村上くんの書いた内容次第では、菜摘さんも隼くんに言いにくいことだってあるでしょう。そのパターンかもしれないし。」

「あー……うん。そのパターンかも。」

「なら仕方ないじゃない。そもそも隼くんに言いにくい内容って何書いたのよ?告白系?」

「…いやー?……さあねえ…」

「何よ怪しいわね。」

「まあでも、俺は一回こっぴどく振られてるからな。な?隼。俺、お前の前で菜摘さんに振られたもんな?」

「あ、うん…でもあれは僕たちが付き合った後だったし…」

「そーだな。…でも、俺あのとき言ったよな?諦めないって。……つまりそういうこと。」

鋭く尖ったナイフの先を突きつけてくるかのような視線で、村上くんは僕の目を見た。

その鋭さに、咄嗟に言葉が出なかった。


「ええ…どういうことよ??まだ菜摘さんを諦めてないって事?」

「そゆこと~。だからまあ隼。そこんとこもちゃんと覚えとけよ。そんで菜摘さんにも、俺の存在を忘れてほしくないからさ。ちょっと手紙でアピってきた。だってそうでもしないと、今の菜摘さんは完全にお前のことしか眼中に入れなさそうだもん。それも今は仕方ないにしろさ、いざという時は俺という男もいるんだよって事を言っときたかったんだよ。

「『いざという時」って……」


「まるで僕と菜摘さんが別れの危機を迎えるみたいな言い方じゃないか」……

そう言いかけて、思わず口を閉ざした。

考えたくもない可能性がゼロとは言い切れないこと、そしてその可能性を望む村上くんの気持ちを僕は咎めることが出来ないということが、胸に浮かんだ全ての言葉を口から出すのに躊躇させた。


「なんだか村上くんったら、まるで二人が別れるのを期待してるような言い方するわね。」

僕が押し込めた言葉の続きを、昭恵さんが口にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない

釧路太郎
青春
 俺の親友の鬼仏院右近は顔も良くて身長も高く実家も金持ちでおまけに性格も良い。  それに比べて俺は身長も普通で金もあるわけではなく、性格も良いとは言えない。  勉強も運動も何でも出来る鬼仏院右近は大学生になっても今までと変わらずモテているし、高校時代に比べても言い寄ってくる女の数は増えているのだ。  その言い寄ってくる女の中に俺が小学生の時からずっと好きな桜唯菜ちゃんもいるのだけれど、俺に気を使ってなのか鬼仏院右近は桜唯菜ちゃんとだけは付き合う事が無かったのだ。  鬼仏院右近と親友と言うだけで優しくしてくれる人も多くいるのだけれど、ちょっと話すだけで俺と距離をあける人間が多いのは俺の性格が悪いからだと鬼仏院右近はハッキリというのだ。そんな事を言う鬼仏院右近も性格が悪いと思うのだけれど、こいつは俺以外には優しく親切な態度を崩さない。  そんな中でもなぜか俺と話をしてくれる女性が二人いるのだけれど、鵜崎唯は重度の拗らせ女子でさすがの俺も付き合いを考えてしまうほどなのだ。だが、そんな鵜崎唯はおそらく世界で数少ない俺に好意を向けてくれている女性なのだ。俺はその気持ちに応えるつもりはないのだけれど、鵜崎唯以上に俺の事を好きになってくれる人なんていないという事は薄々感じてはいる。  俺と話をしてくれるもう一人の女性は髑髏沼愛華という女だ。こいつはなぜか俺が近くにいれば暴言を吐いてくるような女でそこまで嫌われるような事をしてしまったのかと反省してしまう事もあったのだけれど、その理由は誰が聞いても教えてくれることが無かった。  完璧超人の親友と俺の事を好きな拗らせ女子と俺の事を憎んでいる女性が近くにいるお陰で俺は恋愛が出来ないのだ。  恋愛が出来ないのは俺の性格に問題があるのではなく、こいつらがいつも近くにいるからなのだ。そう思うしかない。  俺に原因があるなんて思ってしまうと、今までの人生をすべて否定する事になってしまいかねないのだ。  いつか俺が唯菜ちゃんと付き合えるようになることを夢見ているのだが、大学生活も残りわずかとなっているし、来年からはいよいよ就職活動も始まってしまう。俺に残された時間は本当に残りわずかしかないのだ。 この作品は「小説家になろう」「ノベルアッププラス」「カクヨム」「ノベルピア」にも投稿しています。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

処理中です...