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「なあ隼…これ、菜摘さんに渡してくれない?」
ある放課後。
教室から出ようとしていた僕を引き留めて、村上くんは一枚の手紙を差し出した。
「…これは?」
「……今日の国語の時間に書いたんだ。…そりゃお前からしたらいい気分にはならないだろうけどさ。…これを渡すくらい、見逃してくれよ。」
村上君が僕に手渡した封筒は、今日の国語の授業で手紙の書き方を習ったときに、先生から配られたシンプルな白いものだった。
その授業では、日頃お世話になっている人への感謝の気持ちを手紙にしようという指示があった。その相手は友達でも先生でも先輩でも家族でも、誰でもよかったのだ。
そこで村上くんは菜摘さんを選んだのだろう。
「うん。いいよ!菜摘さんも、喜ぶと思う。」
「ならいいんだけどさ…。」
僕が受け取ると、村上君は少し自信なさげにその手を後ろに組んだ。
「菜摘さんは…お前のことしか見てないだろうし、俺の気持ちなんて普段聞くこともないけどさ。…だから、手紙で伝えることくらいは許してほしいんだよ。」
僕の家に来てくれたあの日のように、村上くんは悲しそうに笑いながらそう呟いた。
村上くんのこの表情を見るのは何度目だろうと、僕は咄嗟に考えた。
彼は僕と菜摘さんについて話すとき、必ずと言っていいほどこの表情をする。
そして、彼がこの間の昭恵さんとほとんど同じことを言っているのが、僕の胸に刺さってきた。
「わかった……。」
僕はそう言うのがやっとで、村上くんから伝わってくる悲しい雰囲気を振りほどくかのように目を逸らした。
僕は最近、昭恵さんや村上くんの抱く悲痛な想いを、前以上にひしひしと感じ取ってしまうようになった気がする。
だけどそれを感じ取った所で例によってどうしようもできないので、弱い僕はまた、胸につかえる痛みを我慢しながらも、脳を思考停止させることしかできないのであった。
ある放課後。
教室から出ようとしていた僕を引き留めて、村上くんは一枚の手紙を差し出した。
「…これは?」
「……今日の国語の時間に書いたんだ。…そりゃお前からしたらいい気分にはならないだろうけどさ。…これを渡すくらい、見逃してくれよ。」
村上君が僕に手渡した封筒は、今日の国語の授業で手紙の書き方を習ったときに、先生から配られたシンプルな白いものだった。
その授業では、日頃お世話になっている人への感謝の気持ちを手紙にしようという指示があった。その相手は友達でも先生でも先輩でも家族でも、誰でもよかったのだ。
そこで村上くんは菜摘さんを選んだのだろう。
「うん。いいよ!菜摘さんも、喜ぶと思う。」
「ならいいんだけどさ…。」
僕が受け取ると、村上君は少し自信なさげにその手を後ろに組んだ。
「菜摘さんは…お前のことしか見てないだろうし、俺の気持ちなんて普段聞くこともないけどさ。…だから、手紙で伝えることくらいは許してほしいんだよ。」
僕の家に来てくれたあの日のように、村上くんは悲しそうに笑いながらそう呟いた。
村上くんのこの表情を見るのは何度目だろうと、僕は咄嗟に考えた。
彼は僕と菜摘さんについて話すとき、必ずと言っていいほどこの表情をする。
そして、彼がこの間の昭恵さんとほとんど同じことを言っているのが、僕の胸に刺さってきた。
「わかった……。」
僕はそう言うのがやっとで、村上くんから伝わってくる悲しい雰囲気を振りほどくかのように目を逸らした。
僕は最近、昭恵さんや村上くんの抱く悲痛な想いを、前以上にひしひしと感じ取ってしまうようになった気がする。
だけどそれを感じ取った所で例によってどうしようもできないので、弱い僕はまた、胸につかえる痛みを我慢しながらも、脳を思考停止させることしかできないのであった。
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