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「村上くん…顔を上げてくれ。」

村上くんの鼻をすする音だけが響いていた室内に、父の声が重なった。

村上くんは父に言われた通りに顔を上げ、真っ直ぐに僕の両親の方を見た。


「君は…隼をいじめていたグループに属していたと言ったね。君自身は隼に対して何かしたのか?」

「はい…。隼に対して、酷いことを言いました。俺も隼に嫉妬している面もあったので…心にもない暴言を吐いたりしました。」

「そうか。暴力を振るったり物を隠したりは?」

「そういうのは…俺はやってません。」

「うん。村上くんにされたことはないよ。」

「なるほどな。」


村上くんが突然いじめについて語ったので、僕は驚いて何も言えないでいたが、今現在彼は僕と仲良くしてくれているし、しかもこうして正直に話してくれている。

そんな村上くんの立場が悪くならないように、僕は自然と口を挟んでいた。

「正直に話してくれたのは偉いと思う。それに今は反省しているのも伝わってきた。…しかしいじめは絶対に許されないことであるし、何より言葉の暴力は立派な犯罪にだってなり得る。他人を傷つけ悲しませる最低の行為だ。それは分かるね?」

「はい。…俺は隼に対して、本当に最低なことをしました。」

「村上くんはその田中くんというリーダーの子に対して、隼へのいじめを辞めるよう言ったこともないのだろう?」

「はい。怖くて言えませんでした。」

「その気持ちも分かるがね。これからは二度と誰かをいじめで傷つけることがないように、その対象が隼じゃなくても、それだけは忘れないでほしい。」

「はい……。」


父親の優しく諭すような言葉に、村上くんは泣き崩れながら何度も頷いていた。

僕の両親は、僕がいじめを受けていたことを聞いても、取り乱したり激怒したりせずに冷静にしている。

しかし、そう見えるだけなのかもしれない…。


「隼。私はすごくショックだった。隼がいじめを受けていることに気づきもしなかったことが。毎日一緒にいるのに、何も気付なかった…。最低なのは私たちも同じなのよ……」


父親の隣でずっと俯いていた母が、目を赤くして言った。

その顔には、父親のようないじめに対しての怒り以上に、それに気付なかった自分たちへの後悔が滲み出ているようだった。

「隼くんは…ご両親には隠していたんだと思います。知られたら気を遣わせるし、心配させてしまうからと…。私からも何度か家族に相談するように言ったのですが、結局隼くんはそれをしなかった…。それは隼くんなりの気遣いだと思います。」


いじめの話になってからずっと黙っていた菜摘さんが、優しい声色で僕の母を宥めるように言った。

そして僕に対しても一瞬、優しい目線を投げかけてくれた。
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