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「君たちの言いたいことはよく分かった。本当にお互いを大事に想い合っているんだな。」

「もちろんだよ!僕は菜摘さん以外考えられない。心配をかけないようにするし、ちゃんと受験も頑張るから…」

「ご両親が大事な息子さんを心配なさるのは当然です。ですが、私が彼を想う気持ちはそれに遜色ないと自負しております。彼はもう、私の命よりも大事な存在です。」


張り詰めた空気が支配する中、僕と菜摘さんは必死に両親に許しを請うた。

情熱だけではこの目的を達成できないことであるということは二人ともよく分かっている。

しかし僕たちはもう、普段から抱いていた相手への底なしの愛情を、口から迸らせることを止められなかった。

村上くんと昭恵さんは、そんな僕たちを緊張した面持ちで黙って見つめていた。


「……君たちは、やっぱりまだまだ考えが幼いね。」

僕たちの嘆願を遮るように、父親が言った。


「好きだから付き合う…それは当たり前のことのように思うかもしれないが、必ずしも当たり前なんかじゃない。むしろ奇跡に近いことなんだよ。好きでも一緒になれないこともある。それはわかっているのかね?」

「分かってるよ…」

「いや分かってないね。隼。残念ながらお前はまだ、私たち親の保護下にある。自由な恋愛や本人の意志が尊重される恋愛は勿論理想的だが、自由や意志には責任が伴う。その責任をまだお前は取れないんだよ。」

「責任…?」

「菜摘さんはお前が大事な時期だと言っていたが、菜摘さんだってまさに今が大事な時期だと思わないか?彼女の貴重な20代を、お前が独占することの意味を考えたことはあるのか?」

「それは…問題になりません。私は隼くんとずっと一緒にいるつもりです。」

「今は付き合いたてでそういう考えが強いかもしれないがね。長く付き合っていくうちにお互いの嫌な面や合わない面も出てくる。そしてそれが許容範囲を超えたらどうする。それでも一緒にいられると断言するのか?」

「それはそうかもしれないけど…もし仮に、どうしても合わなくてお互いが許容も妥協もできないレベルだったとしたら、そもそもそこまで長くは続かないと思う。ということはお互いを拘束する期間だってそこまで長くはならないはずでしょ。だったらお父さんが心配してるようなお互いの時間を無駄にすることに関しても、そこまで長い時間にはならないんじゃないかな。それに付き合いたてだからこそ、まだ分からないことだって多いんだよ。だからそんなに頭ごなしに反対しないで様子を見てくれてもいいと思うんだけど…。」

「責任が生じるのは時間に関することだけじゃない。菜摘さんが小学生と付き合ってると世間が知ったら、菜摘さんの風評被害だって心配にならないのか?」

「だからそれを最小限に留めるために今こうして二人に許してもらいたいと思ってるんだよ。子供側の親の公認だったら問題にはならないはずでしょ?……お願いだよお父さん……僕と菜摘さんのことを認めてよ…」

「しかし…」

「お母さんは?お母さんはどう思ってるの?」

しばらく黙って僕と父親の会話を聞いていた母親の考えも聞きたくなったので、僕は母親の方へと向き直った。


「そうねえ…流石に驚いたけど……二人の気持ちは相当強いみたいだし、菜摘さんの人間性にも問題は無いと思うわ。だから、隼の言う通り少しの間は様子見をしてもいいんじゃないかしら…」

「しかし君そう簡単に言うがね…」

「あの!ちょっといいですか?」


父と母の会話に突然別の声が入った。

その声のする方を見ると、村上くんが立ち上がって何やら僕の両親に強い視線を注いでいた。
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