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「ところで菜摘さん…隼と交際に至った経緯を簡単に話してほしいのだが…。」
しばらく黙っていた父親が初めて口を開いた。
「……いやね、不思議でならないんだよ。どうして君のような女性が14歳も年下の隼とお付き合いをしてくれているのか…。隼は君が教えていた中学の生徒たちよりも更に幼い。そんな隼と、一体どんな流れで恋愛関係になったのか、気になって仕方ないんだよ。」
父は母に比べて、菜摘さんへの警戒心を隠すことなくそう言った。
元々、菜摘さんとのことを両親に話したとき、父親は母親以上に訝しがっていた。
そのことは事前に菜摘さんにも伝えてあったため、質問された菜摘さんはキュッと顔を引き締めながらしっかりと父の目を見て答えた。
「はい。初めて隼くんと出会ったのは、去年の春でした。私が他の子どもたちと遊んでいた時に、隼くんはずっと一人で絵を描いていました。それが気になったので、皆が帰った後に隼くんに声をかけました。…そこから定期的に隼くんとも遊んだり話したりするようになりました。」
「それは隼がみんなと一緒に遊ばずに一人でいたから声をかけたということだな?」
「はい。初めは皆と同じように接し、同じように遊んでいたのですが…夏休みのある日に、私が高熱を出したことがあったんです。その時に隼くんは私のアパートまで私を送ってくれて、そのあともしばらく看病してくれました。お粥を作ってくれたり、薬局へ買い出しに行ってくれたり…体調を崩して心細かった私は、隼くんのそんな優しさに大きな安心感を得ました。」
「そのときはまだ、恋愛感情を持っていなかったのか?」
「……それは……今思うと分かりません…。いつから隼くんを男性として意識するようになったのか…。はっきりとしたきっかけがあった訳ではないので、もしかしたらそのくらいの時期から隼くんの優しさに触れる度にそういう感情が芽生えていたのかもしれません。」
菜摘さんの話に、僕たち小学生3人はつい黙って聞き入っていた。
菜摘さんがいつから僕を好きになってくれたのかなんてことは、僕ですら聞いたことがなかった。
父親に詰問されるような形の菜摘さんの応答だが、菜摘さんが僕らの関係をどのように語ってくれるのか、彼女目線からそれを聞けるのが貴重な気がして少しワクワクしている自分がいた。
「隼はいつから菜摘さんを恋愛対象として見るようになったんだ?」
「えっ?」
不意に父親から自分に向けられた質問に、僕は驚いて思わず素っ頓狂な声を出した。
父親だけでなく母親も村上くんも昭恵さんも、皆の興味深そうな視線が一気に集まった。
「えーと……僕も夏休みが終わる頃…かな。その頃には菜摘さんといるとドキドキしたり、会えない日が続くと寂しかったりした。だけどしばらくはそれが恋愛感情だってことに気付なかったんだけど…クラスの女子たちに好きな人はいるかって聞かれた時、菜摘さんの顔が頭に浮かんで離れなかった…。その時からかな…自覚したのは。」
僕もまた、これまで菜摘さんにこんな話をしたことがなかった。
隣で本人に聞かれていると思うと顔から火が出るくらいに恥ずかしかったけれど、ちゃんと僕たちのことを認めてもらう為には、聞かれたことには誠実に答える他ないと思っていたので、努めて正確に記憶を辿って答えていた。
ふと隣に座る菜摘さんの顔を見ると、僕以上に顔を赤らめ、口元の緩みを必死に隠そうとしているのが分かった。
僕はそんな菜摘さんを見て、いつも通りだなと思って安心した。
それは今日、僕の両親の質問に対して改まって答えている菜摘さんをずっと見ていたからかもしれない。
「なるほどな…。それで、付き合ったときのことも聞かせてもらおうか。」
父親は腕を組み替えていつもより低い声でそう言った。
しばらく黙っていた父親が初めて口を開いた。
「……いやね、不思議でならないんだよ。どうして君のような女性が14歳も年下の隼とお付き合いをしてくれているのか…。隼は君が教えていた中学の生徒たちよりも更に幼い。そんな隼と、一体どんな流れで恋愛関係になったのか、気になって仕方ないんだよ。」
父は母に比べて、菜摘さんへの警戒心を隠すことなくそう言った。
元々、菜摘さんとのことを両親に話したとき、父親は母親以上に訝しがっていた。
そのことは事前に菜摘さんにも伝えてあったため、質問された菜摘さんはキュッと顔を引き締めながらしっかりと父の目を見て答えた。
「はい。初めて隼くんと出会ったのは、去年の春でした。私が他の子どもたちと遊んでいた時に、隼くんはずっと一人で絵を描いていました。それが気になったので、皆が帰った後に隼くんに声をかけました。…そこから定期的に隼くんとも遊んだり話したりするようになりました。」
「それは隼がみんなと一緒に遊ばずに一人でいたから声をかけたということだな?」
「はい。初めは皆と同じように接し、同じように遊んでいたのですが…夏休みのある日に、私が高熱を出したことがあったんです。その時に隼くんは私のアパートまで私を送ってくれて、そのあともしばらく看病してくれました。お粥を作ってくれたり、薬局へ買い出しに行ってくれたり…体調を崩して心細かった私は、隼くんのそんな優しさに大きな安心感を得ました。」
「そのときはまだ、恋愛感情を持っていなかったのか?」
「……それは……今思うと分かりません…。いつから隼くんを男性として意識するようになったのか…。はっきりとしたきっかけがあった訳ではないので、もしかしたらそのくらいの時期から隼くんの優しさに触れる度にそういう感情が芽生えていたのかもしれません。」
菜摘さんの話に、僕たち小学生3人はつい黙って聞き入っていた。
菜摘さんがいつから僕を好きになってくれたのかなんてことは、僕ですら聞いたことがなかった。
父親に詰問されるような形の菜摘さんの応答だが、菜摘さんが僕らの関係をどのように語ってくれるのか、彼女目線からそれを聞けるのが貴重な気がして少しワクワクしている自分がいた。
「隼はいつから菜摘さんを恋愛対象として見るようになったんだ?」
「えっ?」
不意に父親から自分に向けられた質問に、僕は驚いて思わず素っ頓狂な声を出した。
父親だけでなく母親も村上くんも昭恵さんも、皆の興味深そうな視線が一気に集まった。
「えーと……僕も夏休みが終わる頃…かな。その頃には菜摘さんといるとドキドキしたり、会えない日が続くと寂しかったりした。だけどしばらくはそれが恋愛感情だってことに気付なかったんだけど…クラスの女子たちに好きな人はいるかって聞かれた時、菜摘さんの顔が頭に浮かんで離れなかった…。その時からかな…自覚したのは。」
僕もまた、これまで菜摘さんにこんな話をしたことがなかった。
隣で本人に聞かれていると思うと顔から火が出るくらいに恥ずかしかったけれど、ちゃんと僕たちのことを認めてもらう為には、聞かれたことには誠実に答える他ないと思っていたので、努めて正確に記憶を辿って答えていた。
ふと隣に座る菜摘さんの顔を見ると、僕以上に顔を赤らめ、口元の緩みを必死に隠そうとしているのが分かった。
僕はそんな菜摘さんを見て、いつも通りだなと思って安心した。
それは今日、僕の両親の質問に対して改まって答えている菜摘さんをずっと見ていたからかもしれない。
「なるほどな…。それで、付き合ったときのことも聞かせてもらおうか。」
父親は腕を組み替えていつもより低い声でそう言った。
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