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「……という訳なんだけど、村上くん…。協力してくれないかな…?」

菜摘さんと打ち合わせをした次の日。

僕は放課後に村上くんを呼び出して、菜摘さんと一緒に僕の家に来て欲しいことを伝えていた。

これまでの説明の中で、菜摘さんが抱える不安や僕たちの間に現れた根深い問題などについては一切触れなかった。

ただ村上くんも、僕たちの関係が望ましくない広まり方をし、最悪の結末を迎えるなんてことを避ける為には、事前に僕の両親から認めてもらっておくことが最善の策であるということは察してくれていた。


「お前らさぁ…前から思ってたけど意外に図太いよなぁ。俺に頼むことかよ…?」

「そうだよね、ごめん…。さすがに無神経過ぎたよね」

「無神経にも程があるわっ!俺の気持ちを知っててさぁ……」

「ごめん…そりゃそうだよね。やっぱりこの話は無かったことに…」

「けど菜摘さんを救うためなら一肌脱ごうかなぁ…。あくまで菜摘さんを救うためな?…菜摘さんのお願いなんだろ?……だからやるんだぞ?…お前の為ではない。」

「えっ!いいの!?」

「うん。…菜摘さんの為だから。勘違いすんなよ?」


村上くんがまさか承諾してくれるとは思わずにダメ元でのお願いだったため、村上くんの優しさに僕は驚くと共にとてつもない感謝の気持ちが湧き上がってきた。


「ありがとう!本当にありがとう村上くん!」

「お前に礼を言われても嬉しくはないが、菜摘さんからも同じようなテンションでお礼を言われるならその為だけに頑張るわ。」

「うんっ!菜摘さんも絶対に喜ぶと思う!」

「俺の気持ちを知りながら自分のために俺を利用して喜ぶのかぁ……。……あーあ、俺は菜摘さんの前ではマゾなのかもしれねえなあ…」

「え?」

「…なんでもねえよ。」


村上くんがボソリと何か呟いたが、その顔には早くも菜摘さんから感謝され、お礼を言われている場面を想像したのか、口元が緩んでいるのを隠し得ていなかった。


「んで、お前の家に行ったら俺はどうすればいいわけ?菜摘さんを狙うお前のライバルっていう立ち位置を存分に見せ付ければいいわけ?」

「それじゃあただ修羅場になるだけだよ」

「いいじゃん修羅場。これから先お前らが辿るべき修羅の道の序章みたいなもんよ。」

「何言ってんの…そりゃあ多少は覚悟してるけどさ。何も今それを僕の両親の前で発表して見せなくても…」

「ったくお前は冗談が通じない奴だなぁ…。そんなんじゃあ状況が状況なだけに余計に神経病みそうだなお前ら。」

「だからそのリスクを少しでも減らす為に今こうして村上くんにも協力してもらってるんだよ…」


僕と村上くんが冗談を言い合っていると、不意に背後に人の気配を感じた。

その感覚と同時に、僕の肩にポンと手が置かれ、僕は思わずビクリとして振り向いた。


「ねえその話…私にも詳しく聞かせてくれない?」

そこにはいつかの日、教室の前で話した時と同じように、昭恵さんがランドセルを背負って立っていた。
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