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翌日。

僕は菜摘さんとまた公園で待ち合わせしていた。

最近はそんな少しの隙間時間でさえも、単語帳や参考書を読み込んでいる。

それは単純に受験が近づいているからという理由もあるが、母親のように僕の受験を知っている人たちに対して、ちゃんと勉強しているのだということをアピールする為の分かりやすい行為でもあった。


「隼くんおまたせ!」

ポン、と僕の肩に手を置いて弾ける声で僕を呼ぶ菜摘さん。

振り向くと溢れる暖かい気持ち。

僕はこんな何気ない瞬間も、好きで好きで堪らない。




「そっかぁ…じゃあ、一応交際は認められたってことでいいの?」

夕暮れを背に、僕達は公園の奥にある東屋で昨日のことについて話していた。

空から降り注ぐ柔らかい陽の温もりは、優しく僕たちの空気を包み込む。

オレンジ色の夕焼けが目の前の小さな沼に反射して、キラキラと浮かんでは視界を輝かせた。

所々に静かに佇む睡蓮の花は、春の匂いを一身に纏っているかのようにはっきりと、そして青々しく僕らを見ていた。


僕は、昨日母親と話したことを菜摘さんにも報告した。

母親に怒られるかと思いきや、僕が話していくうちに、案外菜摘さんへの興味を示してくれたのだった。

「まあそうだね。でも、菜摘さんのことを自分の目で見てみたいって言ってた…。会ってみたいって。」

「私もそれは思ってた!隼くんのご両親にちゃんと挨拶できれば、もっと堂々と付き合えるなーって。」

「僕の親が認めてさえくれれば、何かと面倒なことにはなりにくいしね。」

「そうなのよね。……まあ…もう私は法律上、充分裁かれるべきことをしたわけだけど。」

「うん…。だからそれについては口が裂けても言わないつもり。あくまで純粋な付き合いってことにしてるよ。」

「まあ!私と隼くんの恋愛は純粋そのものじゃない。……ね?」

「うん…そうだね…!」

僕に向けられた菜摘さんの笑顔があまりに明るくて、僕は思わずそう答えた。

だけど菜摘さんの顔にも僕らの間に流れた空気にも、この間発覚した問題を無意識に押し退けるような感じが漂っている。

きっと互いの頭の中をあのことが掠めたのだけれど、どちらも敢えてそれに触れずに、あくまで僕らの交際が純粋で真っ直ぐで極めて順調であるかのように振る舞っている。

それは菜摘さんのしたことを無かったことにしている訳ではなく、これから徐々に時間をかけてでもそれを解決していく上では、むしろこういう態度のほうが良いと、お互い無意識に意見を交わしているかのようだった。
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