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「隼くん…あのね……」


しばらくお互いに黙ったままだった。

意を決したように菜摘さんが鼻をかんで、軽く咳払いをした。

菜摘さんが鼻をかんだティッシュのゴミが、さっきまで彼女が食べていたアイスの棒にゴミ箱の上で重なる。

真っ白な布に包まれた秘密を僕の身の上に投げ捨てるかのように、ある意味それは思い切りの良い捨て方だった。


それから菜摘さんは、日頃感じている不安や悩みごと、心配なことや僕への些細な不満を全て話してくれた。

元々僕と付き合う前から義兄との関係はあったこと。

僕と付き合うようになってから一度は関係を辞めたが、僕との不安が大きくなってからはまた関係するようになったこと。

僕との不安とは、さっきも言ってた通り、将来僕が菜摘さんを捨てるのではないかということ。

そう考えてしまう理由は、彼女が僕より14歳も歳が上であることと、僕が他の女子から好かれていること(?)らしい。

そして過去に菜摘さんが付き合った歳下の彼氏も、僕と同じように菜摘さんを捨てないと言いながら、結局同世代の若い女の子と付き合ったことがあり、その経験が余計に不安に拍車をかけているということ。

更には世の中的にタブー視されている僕らの関係が、どこかに漏れたときに強制的に引き裂かれることも不安材料の一つだと言う。

仮にそうなれば僕の気持ちに関係なく、2人は別れなければいけなくなる。

そしてその可能性は僕が18歳になるまでは付き纏う訳だから、あと7年間も持ちこたえられるか分からない、ということだ。


菜摘さんの話を聞いていると、僕も納得してしまうものが何個かあった。

特に、僕らの関係を知った人から強制的に引き裂かれる可能性については、これまであまり考えないようにしてきたが、いくら僕らが上手く隠しているつもりでも、どこから漏れてしまうかは分からないのだから、納得するしかなかった。

また、過去の歳下の彼氏の話についても、菜摘さんがここまで僕を疑う理由としては充分すぎるなと思った。

所謂トラウマなのだろう。

その種のトラウマは、かなり根深い問題だ。

僕が無責任にそのトラウマを克服させると言ったところで簡単には信用できないのも仕方ないのかもしれない。


だけど……


菜摘さんを苦しめているのは、過去や未来への不安であって、今目の前にいる僕ではない。

それだけは自信を持って言える。

話を聞いても、結局僕が菜摘さんに直接何かをした訳でも、不安にさせた訳でもないんだ…。
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