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「ねえ菜摘さん…。菜摘さんは、本当に僕に隠してることはない?」

「どうしたのよ急に。」

「僕は菜摘さんの全てを知りたいんだよ…。どんなに嫌なことでもいい。僕にとって辛いことでもいい。むしろ、隠されたり嘘を吐かれたりする方が、僕にとってはずっとしんどいから…。」


いきなりの正面突破に、流石の菜摘さんも驚いた顔をしている。

僕の目を覗き込みながら、その真意を必死に汲み取ろうとしている。

そんな心理が分かってしまうくらい、それを隠す余裕がないくらい、菜摘さんが少し動揺している。


「何でも言って欲しいんだ…。僕も何でも言うからさ」

「…私は、隼くんには隠し事をしてないつもりだけど…」

「本当に?…でも不安だよ…」

「何が不安なのよ。」

「この間の…義理のお兄さんのこと…。やっぱり不安なんだ…」


僕の情けない呟きに、再び菜摘さんの目の奥が動いた。

やっぱり、この話は菜摘さんにとって知られたくない事実が隠れているのだろうか…。


「私とお義兄さんが、恋人関係にあるんじゃないかって思ってるの?」

「……うん……。僕とその人と…同時に付き合ったりしてるのかなって…。」

「そんなはずないじゃない!…私が好きなのは隼くんだけよ?お義兄さんとは仲が良いけど、恋愛関係にはならないわよ。だって私の姉の夫なのよ?」

「それはそうなんだけどさ……。」


言葉にできない不安と違和感に、僕自身が潰されそうだ。

続かない僕の言葉を待つように、菜摘さんは黙ったまま僕の目を見つめている。

僕は、別に菜摘さんを詰問したい訳ではない。

ただ菜摘さんに少しでも心当たりがあるのなら、僕の不安を全て取り除いて欲しいだけなんだ。

仮に義兄との関係が僕の言った通りのものだとしても、僕はショックを受けることはあれど菜摘さんを嫌いになんてなれないのだから…。



「…ごめんね隼くん……。私、隼くんにひとつだけ隠し事をしてた……」


これまで二人の間に流れたことのない重い空気に耐え切れなくなったのか、菜摘さんは小さな声でそう告白した。
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