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4月も下旬に入った。

春の街を淡く染めていた桜の木々も、次第に緑の葉が太陽の光を反射するようになる。

徐々に暖かい日が増えてきた。

早くも初夏に突入したかのような眩しい木漏れ日と澄んだ空は、思わず街行く人たちの目を細めさせる。


そんな晴れた春のある日、僕は放課後に日直の仕事をする為に少しだけ居残りをしていた。

学級日誌を書き、窓の戸締まりをし、机の配置を元に戻した。

全て完了し、あとは職員室へ学級日誌を提出しに行くだけだと思い、僕は自分のランドセルを背負って教室から出ようとした。

「……あっ!……隼くん…」

「昭恵さん!」


教室のドアを開けると、そこには昭恵さんがランドセルを背負ったまま立っていた。


「昭恵さん、どうしたの?忘れ物でもした?」

「ううん…そんなんじゃないんだけど…。」


僕の問いかけに辿々しく答え、俯いたまま目を合わせない。

僕は不思議に思い、昭恵さんの言葉を待っていた。


「あの、隼くん…菜摘さんと、彼氏について話した…?」

「え…」

「あの日…隼くんは菜摘さんと公園で話してたでしょ?だから、菜摘さんに何か言ったのかなと思って」


どこかバツが悪そうに途切れ途切れに昭恵さんの口から出てくる言葉に、僕は自分の顔が徐々に熱くなっていくのを感じた。

昭恵さんと噴水の前で話した後、わざわざ公園へ引き返し、そこで菜摘さんと僕が一緒にいるところを見られていたとは…。

それに菜摘さんに彼氏のことを尋ねたというのも事実なので、謎の後ろめたさが背中に這っていった。


「そうだね…菜摘さんに聞いてみたよ。だけど、昭恵さんたちが彼氏だと思ってた人は、菜摘さんの義理のお兄さんなんだって。だから彼氏さんでも何でもないし、ただの親戚だって言ってたよ…。」


僕はまるで自分に改めて言い聞かせるように、菜摘さんと例の義兄の関係性を説明した。

自分でも可笑しくなるくらい、ゆっくりと言葉を繋いだ。


「なんだ…そうだったのね…。」

俯いていた顔をそのまま斜め下に動かし、消え入りそうな声で昭恵さんが呟いた。

「うん…そうみたい。」

僕は昭恵さんが何故意気消沈しているのか、なんと無く察しながらも、敢えてそのような気のない返事をした。
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