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その日、僕は放課後に昭恵さんたち三人をあの理科棟の階段に呼んで、きちんと話すことにした。


みんなの気持ちは本当に嬉しいけど、僕には今好きな人がいて、申し訳ないけど気持ちに応えることはできない。

これからは僕がいじめられているから中々難しいとは思うが、友達として仲良くしてくれると嬉しい。

大方こんな様なことを伝えた。

すると3人は案外僕の好きな人を聞き出そうとするでもなく、すんなりと納得してくれた。

僕はこのことを教室で待ってくれていた村上くんに報告し、一緒に帰った。


いつの日かと同じように、そのまま村上くんは塾へ、僕は公園で菜摘さんと会った。


「隼くん、なんだか今日は顔が疲れてるね。」

菜摘さんは開口一番にそんなことをいい、心配そうに僕の顔を覗き込む。

僕は今日の出来事を一切菜摘さんには言う積りはない。

村上くんに相談したとはいえ、いつでも菜摘さんに頼ってばかりでは駄目で、自分で解決しなければならない事もあると思うからだ。

そう自分を奮い立たせ、いつもなら少しでも不安なことや心配事があるとすぐに菜摘さんに相談していたが、今回はそれをしない。

僕は少しずつ、菜摘さんへの依存を弱めていかなければならないのだ…。

「なんでもないよ。」

「それは絶対嘘よ。また学校で嫌なことでも言われた?」

「言われてないよ。本当に、僕は元気だよ!…あ、そうだ!今日の図工の時間にね、菜摘さんをイメージした版画を作ったんだよ。ほら、見て!」

「あら~。上手な桜。だけどこれ、どうして私をイメージしてこうなったの?」

「菜摘さんと初めて出会ったのは桜の季節だったから。最初に見たときの菜摘さんの笑顔がふっと思い浮かんだんだ。」

「そうなのね。…あれからもう1年経とうとしているのね。あっという間…」


目を細めて記憶を1年前に飛ばしている菜摘さんの横顔は、初めて見たときよりも増して美しかった。

そしてきっとあの日と同じ菜摘さんの表情を見ても、僕が感じ取る美しさは、また別のものなのだろうと思った。

それは二人の関係性の変化所以でもあり、二人自身の変化所以でもある。

僕は今日の出来事を自力で解決したことに、1年前とは異なる自分の変化を正に見出していた。
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