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「隼くん、進級おめでとう!」
4月に入り、僕は6年生になった。
始業式の日、僕と菜摘さんはいつものベンチで座って話していた。
菜摘さんは僕にお祝いを言いながら、薄いピンク色のアイシングで桜を描いたクッキーをくれた。
「ありがとう菜摘さん!僕、菜摘さんの焼いてくれるクッキー好き!」
「よかった。せっかくだから、春らしくしたの。ほんのりといちご味がすると思うよ。」
優しく笑う菜摘さんの目を見ながら、僕は幸せな気持ちに浸っていた。
2人でこうして節目節目を過ごせること。
その度に思い出が増えて重なっていくこと。
そんな当たり前のようなことが、とても美しい価値を帯びて僕の目の前に散らばっていたのである。
その輝きに思わず目を眩ませながら、僕も菜摘さんに釣られて笑顔になっていることを自覚した。
「そういえば隼くん。さっき隼くんがここに来る前にね、私と遊んでた女の子が隼くんの話を振ってきたの。」
「え、菜摘さんに僕の話を?」
「うん。昭恵ちゃんっていう子。同じクラスなんでしょう?」
「……!昭恵さんが……!?」
菜摘さんの出した名前に、僕は思わず狼狽えた。
昭恵さんは、去年田中くんたちが悪戯をするターゲットになっていたクラスの女子だ。
僕は事前に田中くんたちの計画をたまたま聞いていたので、昭恵さんと田中くんたちを会わせないようにした。
するとその結果、田中くんたちは上手に僕に罪をなすりつけて、昭恵さんや先生方、クラスの女子たちも僕が昭恵さんを襲おうとしたという誤解をしたままになっていたのである。
あれ以来、昭恵さんとは一度も会話をしていない。
だからこそ、菜摘さんに僕の話をしていたということが意外すぎて驚いてしまったのである。
「バレンタインの日、隼くんにチョコを上げた女の子がいるじゃない?……実はあれ、昭恵ちゃんのお友達らしいのよ。」
「えっ!?!」
「誰かは言ってなかったけどね。……んで、本当は昭恵ちゃんも隼くんにチョコをあげたかったらしくて…」
「ちょ、ちょっとまって…どういうこと?昭恵さんが?……ええ?」
「昭恵ちゃんは本命かどうか、私に言わなかったわ。
……けど、同じ女として何となくわかる。あれは恐らく本命よ。」
「…ええ…ちょっと、頭が追いつかないんだけど…」
「つまり!昭恵ちゃんは、私と隼くんが仲良しなのを知ってるから、私を通じて隼くんにチョコをあげたいらしいのよ。だけど隼くんの好みを知らないから、私に聞いてきたってこと。隼くんに直接聞くのは恥ずかしかったらしいわ。」
「えーと……僕はこの話を聞いてもよかったの?」
「それは大丈夫らしい。いずれ隼くんにチョコをあげるのは変わらないからね。」
「なるほど……?」
菜摘さんがスラスラと話す内容の全てがまるで信じられなくて、僕は脳の処理が追いついていなかった。
4月に入り、僕は6年生になった。
始業式の日、僕と菜摘さんはいつものベンチで座って話していた。
菜摘さんは僕にお祝いを言いながら、薄いピンク色のアイシングで桜を描いたクッキーをくれた。
「ありがとう菜摘さん!僕、菜摘さんの焼いてくれるクッキー好き!」
「よかった。せっかくだから、春らしくしたの。ほんのりといちご味がすると思うよ。」
優しく笑う菜摘さんの目を見ながら、僕は幸せな気持ちに浸っていた。
2人でこうして節目節目を過ごせること。
その度に思い出が増えて重なっていくこと。
そんな当たり前のようなことが、とても美しい価値を帯びて僕の目の前に散らばっていたのである。
その輝きに思わず目を眩ませながら、僕も菜摘さんに釣られて笑顔になっていることを自覚した。
「そういえば隼くん。さっき隼くんがここに来る前にね、私と遊んでた女の子が隼くんの話を振ってきたの。」
「え、菜摘さんに僕の話を?」
「うん。昭恵ちゃんっていう子。同じクラスなんでしょう?」
「……!昭恵さんが……!?」
菜摘さんの出した名前に、僕は思わず狼狽えた。
昭恵さんは、去年田中くんたちが悪戯をするターゲットになっていたクラスの女子だ。
僕は事前に田中くんたちの計画をたまたま聞いていたので、昭恵さんと田中くんたちを会わせないようにした。
するとその結果、田中くんたちは上手に僕に罪をなすりつけて、昭恵さんや先生方、クラスの女子たちも僕が昭恵さんを襲おうとしたという誤解をしたままになっていたのである。
あれ以来、昭恵さんとは一度も会話をしていない。
だからこそ、菜摘さんに僕の話をしていたということが意外すぎて驚いてしまったのである。
「バレンタインの日、隼くんにチョコを上げた女の子がいるじゃない?……実はあれ、昭恵ちゃんのお友達らしいのよ。」
「えっ!?!」
「誰かは言ってなかったけどね。……んで、本当は昭恵ちゃんも隼くんにチョコをあげたかったらしくて…」
「ちょ、ちょっとまって…どういうこと?昭恵さんが?……ええ?」
「昭恵ちゃんは本命かどうか、私に言わなかったわ。
……けど、同じ女として何となくわかる。あれは恐らく本命よ。」
「…ええ…ちょっと、頭が追いつかないんだけど…」
「つまり!昭恵ちゃんは、私と隼くんが仲良しなのを知ってるから、私を通じて隼くんにチョコをあげたいらしいのよ。だけど隼くんの好みを知らないから、私に聞いてきたってこと。隼くんに直接聞くのは恥ずかしかったらしいわ。」
「えーと……僕はこの話を聞いてもよかったの?」
「それは大丈夫らしい。いずれ隼くんにチョコをあげるのは変わらないからね。」
「なるほど……?」
菜摘さんがスラスラと話す内容の全てがまるで信じられなくて、僕は脳の処理が追いついていなかった。
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